2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K02069
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Research Institution | Tohoku Fukushi University |
Principal Investigator |
冨樫 進 東北福祉大学, 教育学部, 講師 (20571532)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 行基 / 文殊 / 三国観 / 菩提僊那 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は主に,奈良時代に活躍した行基(668‐749)の事績を起点に,奈良~平安期を通じた文殊信仰の変遷について検討した。このテーマは,所定の研究計画を遂行・実現する上で,悉曇をはじめとする文字史料のみならず,美術史料・考古史料にも一定度の目配りを行う必要があると考えた。その際,渡唐僧の一人である円仁を皮切りに,続く奝然らによって日本に将来・展開せしめられた文殊信仰について,先行研究の成果の再確認とともに,その思想史的意義について再検討・再評価を行う必要が生じた。そのため,上述の行基と結びつけられるかたちで展開していった文殊信仰の様相を検討していくこととなった。 行基は、民衆や豪族を対象に幅広く布教活動を行う一方、東大寺の盧舎那仏造営に大きく貢献し、朝野を通じ尊崇を集めた。その結果、行基は生前から〈大徳〉〈菩薩〉と称されるのみならず、死後ほどなく文殊の化身と見なされるようになった。彼の活躍を描く説話は,古代から中近世を通じて、膨大なバリエーションを生み出していく。古代から中近世における行基と文殊信仰との関わりについては、堀池春峰・吉田靖雄両氏の見解が定説となっている。平成30年度は,9世紀初頭に成立した『日本霊異記』上巻「三宝を信敬して現報を得る縁 第五」において初めて展開された行基文殊化身説 が,平安時代中期から後期に向けてどのようなバリエーションを生み,中世に向けていかなる思想的課題をもたらしたのかという点について,『三宝絵』(10世紀末成立)『扶桑略記』(11世紀末成立)に見える行基文殊化身説の分析を通じ,見通しを立てていった。 また,隣接分野(おもに日本文学)の研究者との問題意識の共有・深化を目的として,平成31年3月に仙台市内にて研究会を開催した。この研究会の成果は,令和2年度中に雑誌『季刊日本思想史』(ぺりかん社)誌上での公開を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29・30年度の二年間にわたり,文部科学省関係機関の委員に就任した。 その結果,平均して月1回程度の割合で勤務地を離れ,東京にて3~4日の学外業務に当たることとなり,研究活動を断続的に中断せざるを得なくなったことによる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度の実績をふまえ,交付申請書記載の「研究の目的」「研究実施計画」に即する方向で,より包括的・総合的に研究を推進していく予定である。 また,本研究課題の成果を単著として公開することを視野に入れ,研究の総括を行っていく予定である。
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」欄に記したように,平成29・30年度の二年間にわたり学外業務に一定時間をとられたため,研究予定が当初計画より大幅に遅れることとなった。そのため,平成30年度にて終了予定であった研究計画の延長(一年間)を申請し,認められたところである。 次年度使用額については,研究に使用する消耗品(プリンターのインク・用紙など)に供するとともに,これまでの研究成果を国内外の学会にて発表するための旅費として使用する予定である。
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Research Products
(5 results)