2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K02072
|
Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
李 孝徳 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (90292721)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | レイシズム / ヘイトクライム / ヘイトスピーチ / マイノリティ / 差別 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、欧米で概念化された人種主義を歴史的・思想史的に後付け、現代日本にその概念を適応する際の歴史的・社会的条件を考察・吟味することで、歴史的現象として欧米に特化されてきた人種主義を、日本を含む現代諸社会の構造的かつ普遍的な問題として捉える理論的パースペティヴを構築することを目的とするものである。 初年度は、欧米のレイシズム研究のとりわけ理論的アプローチについてのサーヴェイを行った。昨年度はこうした研究を日本の人種主義の問題と比較検討するために、2000年代に日本で急速に広がった在日コリアンに対するヘイトデモに関する研究を調査し、その結果を戦前の植民地主義の問題の延長として再分節する理論的枠組みに取り組んだ。 その研究調査のエッセンスは、同志社大学・植民地主義研究会の例会「レイシズム再考」(2016年6月18日開催)において「李孝徳「人種主義を日本において再考すること-差異、他者性、排除の現在」で報告した。そこでのポイントは、人種主義が他者化のためのスキームとして、他者を本質化すること、同時にそうした本質化された他者に対する暴力は通常の社会規範が解除される中和の技法が行使されることをG. M. Sykes &とD. Matzaが概念を援用して説明し、ハンナ・アーレント「第三章 人種と官僚制」『全体主義の起源』とミシェル・フーコー『社会は防衛しなければならない』の議論から、国民の創出と植民地支配の行使がこの技法を一般化したことを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述したように初年度は欧米のレイシズム研究のとりわけ理論的アプローチについて、昨年度は日本の現況のレイシズム研究についてサーヴェイを行って、日本のレイシズム研究に理論的アプローチが欠けていることを明らかにできた。とりわけ日本のレイシズムが社会規範を犯す際に道徳観や倫理観を解除するための方法を植民地支配の経験から横領している点を欧米のレイシズム研究との比較から明らかにし、それを分析するための枠組みについての見通しを立てることができ、その骨子を口頭発表することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
先述したように日本の人種主義に対する理論的アプローチの骨子を構築することはできたので、それを歴史的にあとづける作業を行う予定である。特に、明治期のネイションビルディング過程における国民形成が生み出した人種主義と大日本帝国期の植民地支配が生み出した人種主義に焦点をあて、それらが戦後社会に継続したメカニズムについて研究する予定である。 その成果は来年度に東京外国語大学で開催予定の国際シンポジウムで口頭発表し、その後論文として執筆、刊行する予定である。
|