2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K02072
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
李 孝徳 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (90292721)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 人種主義 / 植民地主義 / 帝国主義 / 国民国家 / マイノリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本において生じている特定のエスニック・マイノリティに対するヘイトクライム・ヘイトスピーチに対し、歴史的には欧米で形成された人種主義概念を適用する際に必要な検証を行うものであるが、昨年度は(1)欧米における人種主義概念の形成を人種概念の発生から系譜学的に生じたのかを歴史的に跡付けること、(2)国民国家と帝国主義の形成過程で国家と植民地の統治において双方が相互浸透しつつ人種主義が欧米社会にビルトインされた機序を考察すること、(3)日本において欧米由来の人種主義的統治体制がどのように移入されたのかを明治初年の社会政策と社会状況から分析した。とくに本研究は(3)日本における欧米由来の人種主義的統治体制構築の前提を考察することが目的であるため、(2)国民国家と帝国主義の形成過程で国家と植民地の統治において双方が相互浸透する過程の歴史的かつ理論的な解析に注力した。その結果は、李孝徳「人種主義を日本において再考すること―差異、他者性、排除の現在」『クアドランテ』東京外国語大学・海外事情研究所20号、2018年、87-107頁に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
四年間にわたる本研究の効率的な取り組みのために、これまでの事前調査において得られた課題群を整理しつつ研究体制を整備する計画を立てていたが、概ね予定通りの進捗状況となっている。平成27年度に予定していた日本における人種主義を考察する際に必要と思われる欧米と日本における文献の収集と調査、平成28年度に予定していたこれまで日本で「差別」や民族問題として理解されてきた諸事情を人種主義としてとらえ返すための理論的アプローチの検討、平成29年度は前年度までの研究を踏まえて、そもそも欧米諸国において人種主義(レイシズム)概念がどのように形成されてきたのかを従来のような科学史的・思想史的にだけでなく社会史的に解析することを計画していた。実際、これまでの調査・研究を踏まえて、そのアプローチのための理論的フレームワークを構築することができ、本研究の理論的根幹を見出すことによって、次年度のより具体的な日本の人種主義の形成を考察するための視座を設定できている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず欧米の人種主義研究においてはracism概念がある種自明視されて使用されているため、種々の領域で分析概念として使われており、被分析概念としての検討が十分にされていないことがわかったので、まず欧米諸国でrace概念からracism概念がどのように形成され、社会に受容されるようになったのかを社会史的に跡付ける。その後その研究を踏まえて、平等を担保に国民という社会集団を決定して政治体制を構築した国民国家の形成過程において、国民権としての人権を統治のために配分するべく政治体制にどのように組み込まれたのかを精査する。その後、日本の国民国家形成過程でどのように人種主義が政治体制のなかに組み込まれたのかを制度的な側面に着目して検証する。そこでのポイントは国権の発動地域が拡大するにつれて、どのように人権を配分する人種政治が変化したのかに着目する。そしてその後の帝国主義と敗戦後の日本において人種主義がどのように社会のなかに体制を変えつビルトインされていったのかを考察し、その形成過程を社会史的かつ理論的に総合的にまとめる予定である。
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Research Products
(2 results)