2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K02075
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
イ ヨンスク 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 教授 (00232108)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 美意識 / 近代日本 / 越境 / モダニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度においては、まず日本の伝統的美意識の枠組みがどのように成立したかを考察した後に、それに対するモダニズムの挑戦のあり方を考察することを予定していた。しかし、研究を進めるうちに、美意識の問題の底にある国民意識の問題、とりわけ民俗学的にとらえられた国民意識の問題を考察する必要に迫られた。なぜなら、美意識は結局のところ「国民」の当為のひとつの形式として成立することがわかったからである。韓国の延世大学に招聘されて行った講演「言語が開く<日本>という空間――柳田国男と折口信夫の場合」は、まさにこの問題に取り組んだ研究の成果である。この講演では、柳田国男と折口信夫という近代日本を代表する二人の民俗学者が、どのように「日本」という空間を想像していたかを、かれらの著作を貫く「言語」への眼差しから追究したものである。その結果、このような「国民」を作り上げる言語空間が、近代の「美」の前提にあったことが明らかとなった。 伝統的美意識に対するモダニズムの挑戦については、モダニズムの舞踏家の弟子であった崔承喜における美意識と民族意識との交錯の問題を追究した。その成果は、2016年3月31日から4月3日までアメリカのシアトルで開かれた2016年アジア学会年次大会で発表したが、発表日が2016年4月1日であったため、2016年度の研究成果に回すこととした。とはいえ、この発表の実質的部分は2015年度の業績として数えられる、この発表では、崔承喜の舞踏がモダニズムの流れにありながら、日本と朝鮮、民族性と近代性などさまざまな相克のなかから作り上られていったことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
論文としてまとめることはできなかったものの、研究成果を一つの招待講演を行うとともに、国際学会での学会発表の準備を行うことができたことは、研究が順調に進展していることを示している。前者の招待講演は、韓国の延世大学人文学部の専門的研究者の前で行ったものであるので、高度な内容の水準を保つことができ、しかも国際的な研究交流という面でも大きな意義があった。後者の学会発表については、2016年4月に開催されるアメリカ・アジア学会年次大会での発表のために、1940年代に日本で活躍した朝鮮出身の舞踏家崔承喜についての発表資料を作成した。この発表は、美意識と植民地主義、モダニズムと越境の関係を考察する研究の一環である。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、2015年度の研究を継続するとともに、モダニズムのなかから文化的越境の問題が現れてくる過程を考察する。そこには、実際に海外に渡航した知識人の体験だけではなく、伝統的美意識への対立から、表現様式の上での「越境」がなされる場合も含まれる。また、日本と朝鮮、日本と台湾のような宗主国と植民地の間の「越境」の問題も取り上げる予定である。第二に、西欧との接触体験を記した知識人のさまざまな文章を分析することによって、近代日本の知識人が自己と他者との関係性をどのように構築し、それが美意識のなかにどのように反映されたかという問題を取り上げる。方法としては、いずれも文献研究を中心とする。また、研究を進めるにあたり、韓国、カナダ、アメリカの研究者との相互交流をさらに活発化させたい。
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Research Products
(1 results)