2016 Fiscal Year Research-status Report
『百科全書』にみる科学の歴史と進歩の哲学:そのイデオロギーと読者戦略
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15K02085
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
井田 尚 青山学院大学, 文学部, 教授 (10339517)
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Project Period (FY) |
2015-10-21 – 2019-03-31
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Keywords | 啓蒙思想 / フォントネル / 進歩主義 / 科学史 / 百科全書 / 百科全書派 / 科学アカデミー / 追悼演説 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、フランス啓蒙主義を象徴する『百科全書』(1751-1772)の科学項目で叙述される諸科学の「歴史」において「進歩」の観念が果たす役割、および両者間の論理構成と時間性の齟齬に注目し、近代科学史で常識とされてきた進歩史観の淵源を問い直す作業に取り組みつつある。 平成28年度は、研究計画の(B)『百科全書』と科学の歴史化(「完成」から「進歩」へ)に関する資料の収集・分析を予定していたが、研究計画の(A)新旧論争と科学的進歩のイデオロギーに関する一次資料の収集と分析の延長で、啓蒙主義の先駆者として百科全書派とその進歩史観に多大な影響を与えた科学アカデミー終身書記フォントネルの論文・著作およびアカデミー物故会員の追悼演説などを、思想内容とレトリック(説得の文章技術)の両面から分析する作業に取り組んだ。その結果、以下のことが明らかになった。 1)実験的自然学の発展に期待したフォントネルは、国家や文明の栄枯盛衰を円環の相の下に描く古代以来の循環的な歴史観と訣別し、実験データの蓄積に基づく科学の連続的かつ無限の発展からなる科学の進歩史を構想した。 2)上述のフォントネルの進歩主義的な科学観は、無色透明ではあり得なかった。フォントネルが科学アカデミーの物故会員に捧げた数々の追悼演説は、王権などによる科学アカデミーの庇護への感謝、科学アカデミーの会員が形作る無形の精神的共同体への期待・信頼といった、フォントネルの科学観のイデオロギー的性格を留めながら、それ自体が、近代における科学の目覚ましい進歩を支えた科学者の人物と功績を叙述する科学史の原型を形作っている。 フォントネルの進歩主義的な歴史観およびその実践としての科学アカデミー追悼演説の分析が示すこうした結果は、フォントネルから百科全書派に受け継がれた科学史の歴史叙述を論争的言説として分析する作業の重要性を示唆するもので、非常に意義深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、研究計画の(B)『百科全書』と科学の歴史化(「完成」から「進歩」へ)に関する資料の収集・分析を予定していたが、研究計画の(A)新旧論争と科学的進歩のイデオロギーに関する一次資料の収集と分析の作業を延長し、啓蒙思想の先駆者でフランス科学アカデミー終身書記のフォントネルが論文・著作で理論として唱える近代科学の歴史的進歩の概念と、フォントネル自身の進歩主義的な科学観に則った科学史の実践ともいえる、科学アカデミー物故会員の追悼演説の具体例を分析し、科学史の論争的な性格を改めて確認することができた。 科学アカデミーの物故会員の追悼演説は儀礼的な賞賛演説と見なされることが多く、本格的な研究の対象にあまりならなかった面があるので、科学アカデミー終身書記フォントネルが物故会員の生前の業績を讃える追悼演説の具体例を思想・表現の両面から詳細に分析し、追悼演説を、個人の研究が科学にもたらした進歩の歴史を叙述する科学史の実践として分析する着眼点を得られたのは、大きな前進である。 歴史叙述の地平に一大転換をもたらしたフォントネルの進歩史的な科学観は後発世代の百科全書派に継承されているため、こうした平成28年度の成果は、『百科全書』の科学項目、ダランベールの科学アカデミー追悼演説、百科全書派の個人著作を進歩史的な歴史叙述として分析する準備作業として不可欠であった。なお、終身書記フォントネルが編纂・執筆した『科学アカデミー年誌・論集』は『百科全書』で頻繁に引用・参照されているので、今後の研究の一部を先取りする形にもなった。 また、今後の研究で扱う予定の『百科全書』の科学項目および百科全書派の個人著作についても、この間、同時並行の作業で相当量の一時資料の収集とデータ作成を既に着々と進めており、研究代表者の専門分野でもあるので、研究計画のこれまでの進展を総体的に見ると、おおむね順調といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のように、平成28年度は、研究計画の(B)『百科全書』と科学の歴史化(「完成」から「進歩」へ)に関する資料の収集・分析を予定していたが、その前段階となる、研究計画の(A)新旧論争と科学的進歩のイデオロギーに関する一次資料の収集と分析を延長・本格化し、フォントネルの進歩史的な科学観とその実践としての歴史叙述に関して一定の成果を得られた。 平成29年度は、研究テーマの(B)『百科全書』と科学の歴史化(「完成」から「進歩」へ)に関する資料の読み込みと分析、研究テーマの(C)『百科全書』の科学項目における学説史と進歩史観、の両テーマを中心に『百科全書』の科学項目および百科全書派の個人著作の科学的言説の具体的な分析に取り組み、可能であれば研究テーマの(D)『百科全書』の科学の歴史と読者の教育、にも取り組みたい。なお、『百科全書』の科学項目が主要なコーパス(言語資料)のひとつとなる今後の研究の性格上、研究テーマの(B)および(C)で分析を予定している資料には相当部分の重なりがあり、研究(B)および(C)の作業を同時進行で進めても集約的な資料の収集・分析が可能であるため、研究計画のスムースな進展を目指す上で、特段の支障はない。
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Research Products
(3 results)