2017 Fiscal Year Research-status Report
『百科全書』にみる科学の歴史と進歩の哲学:そのイデオロギーと読者戦略
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15K02085
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
井田 尚 青山学院大学, 文学部, 教授 (10339517)
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Project Period (FY) |
2015-10-21 – 2019-03-31
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Keywords | 百科全書 / 科学史 / ディドロ / ダランベール / 啓蒙思想 / 進歩 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、研究目的の(C)『百科全書』の科学項目における学説史と進歩史観、および(D)『百科全書』の科学の歴史と読者の教育の両テーマに関する資料収集と資料分析を予定していた。 『百科全書』の項目が重要な一次資料となるため、年度の前半までは、ディドロの署名(*のマーク)が施された項目、あるいはそれと思われる無署名項目を準網羅的に読解・分析してデータベースの作成を進めた。その準備を元に、ディドロの無署名項目「無知」の項目本文を詳細に分析し、ディドロが参照指示を伴わない禁書や自著を含む複数の文献からの非明示的な引用を巧みに本文中に埋め込むことで、一見客観的な無知の概念の定義から、同時代の歴史的文脈に重ねた裁判制度の批判、さらには五感や経験科学によっては認識不可能な人間の形而上学的性質なる概念に対する哲学的批判へと、暗黙のうちに読者を誘導している可能性を明らかにした。 年度の後半には、ダランベールによる『百科全書』の物理・力学項目の準網羅的な調査・分析に基づいて、ダランベールが、英国のチェンバーズ百科事典、ミュッセンブルークの物理学入門、力学等に関する自著など様々な文献を明示的・非明示的な形で引用しつつ、力学や数理科学など自らの専門領域やニュートン主義(引力理論)に関係する科学論争の文脈ではいかに自ら項目本文中に介入し、人間精神と学問の進歩に与する啓蒙期の科学者・フィロゾフらしい立場から読者の啓蒙・教育を図っているかを明らかにした論考を、著作(共著)『百科全書の時空』(法政大学出版局、2018年3月刊)として公刊した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の研究目的(C)(『百科全書』の科学項目における学説史と進歩史観)に関しては、『百科全書』の科学項目を主な一次資料とする予定であったが、ダランベールに限らず、ディドロの項目や著作も必要に応じて分析することを当初の予定に組み込まれていたので、年度前半の成果となるディドロの執筆項目の準網羅的調査および無署名項目「無知」に関する論文の執筆は、研究テーマの要請を広義の意味で満たしていると言える。 研究目的の(D)のテーマ(『百科全書』の科学の歴史と読者の教育)に関しても、ダランベールの執筆による科学項目(物理学・力学項目)の準網羅的な調査・分析に基づいて、様々な文献を引用・加工して自らの議論に利用するダランベールの引用作法のを分類学的・系譜学的にパターン化して執筆の具体的な手順を明らかにするとともに、自らの専門領域に近づけば近づくほど、ダランベールが自己引用や自らの言葉によって、当時最新の科学的知見であったニュートン主義や啓蒙主義者としての党派的主張を読者に印象づけ、読者を啓蒙・教育しようとしていることを論証したこれまでの研究成果を、『百科全書』研究の流れを変える画期的な著書の一部として世に問うことができたため、本研究課題の進捗状況は、概ね順調と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度(平成30年度)は、『百科全書』のディドロとダランベールの執筆による科学項目および哲学項目を主たる一次資料として、『百科全書』の科学・哲学項目が同時代の様々な科学文献や辞典類と結ぶ相互引用のネットワークを文献学的な手法で解明する作業に挑みつつ、パリ王立科学アカデミー終身書記を務めた啓蒙思想の先駆者フォントネルが40年近くにわたって執筆を担当した『科学アカデミー年誌』および、科学アカデミーの物故会員の追悼演説、さらにはダランベールによる追悼演説も本格的に視野に入れて、両者による科学史の構想を、進歩の思想という党派性を念頭に置いて、読者を説得・啓蒙する科学的言説として分析して行きたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、予定していた研究用のコンピュータおよび周辺機器の納品が年度内の申請期限に間に合わなかったことによる。コンピュータの劣化は年度途中で判明したので機器の更新は不可避である。 従って、次年度使用額は、2018年度(今年度)にそのままコンピュータおよび周辺機器の更新に宛てたい。 今年度の請求額(直接経費50万円)に関しては、文献の購入費として30万円を設備備品費に計上する。なお、研究成果を論文、可能であれば著作にまとめたいので、抜き刷り・献本の費用に計10万円、パソコンソフト、インクトナーなどコンピュータ消耗品の費用として5万円を消耗品費に、2万円を研究補助の謝金に、通信費・複写費として「その他」に3万円をそれぞれ計上したい。
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