2018 Fiscal Year Annual Research Report
History of Science and Philosophy of Progress in the Encyclopedie : study on it's ideology and reader strategies
Project/Area Number |
15K02085
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
井田 尚 青山学院大学, 文学部, 教授 (10339517)
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Project Period (FY) |
2015-10-21 – 2019-03-31
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Keywords | 百科全書 / 科学史 / 哲学史 / 進歩 / 啓蒙主義 / 読者戦略 / ディドロ / アリストテレス |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、研究課題の枠組の中で、『百科全書』の哲学史項目群でディドロが編纂者・執筆者としてどのような読者戦略、テキスト戦略をとっているのかを分析して以下の内容の論文にまとめた。 アリストテレスの哲学を論じた『百科全書』の哲学史項目には、保守的な内容の項目「アリストテレス主義」(伝イヴォン神父執筆)と、その補遺としてディドロが執筆した項目「逍遥学派哲学」がある。厳しい検閲制度が存在する中、スコラ学と一体化したアリストテレス哲学を正面から批判することは、啓蒙思想が全盛を迎えつつあった『百科全書』の出版当時といえども憚られたのか、項目「逍遥学派哲学」における執筆者ディドロ自身の舌鋒は鈍く、そのアリストテレス批判も、書き換え、ほのめかし、参照指示などによる間接的なものに留まる。しかし、編纂者ディドロがしかけた参照指示のネットワークを辿り、ディドロ自身による哲学史項目群や匿名の執筆者による項目「哲学」に辿り着いた読者は、長らく公認哲学として君臨したアリストテレス哲学の「失墜」と啓蒙の哲学・科学の「勝利」を見届けたはずだ。 本研究では、科学アカデミー終身書記を務めた啓蒙主義者フォントネルがアカデミーの物故会員に捧げた称賛演説(追悼演説)などに反映されたその進歩史的な科学観を皮切りに『百科全書』における科学の歴史の叙述の分析に取り組むとともに、ディドロ、ダランベールらが『百科全書』で掲げた進歩の哲学の党派的な言説をテキストのレベルで支える具体的な読者戦略の解明にも取り組んで来た。その成果として、編纂者のディドロ自らが大量の無署名項目群と並んで執筆した哲学史項目群もやはり、古代の異教徒の諸国民の宗教や古今の哲学者の思想の歴史を一見淡々と紹介するかに見えて、『百科全書』の進歩の哲学と検閲を意識した周到なテキスト戦略に裏打ちされた啓蒙主義的な言説として構築されていることが判明した。
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