2016 Fiscal Year Research-status Report
ユリアヌスを中心とするペラギウス派第2世代の神学に関する思想史的・実証的総合研究
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15K02088
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
山田 望 南山大学, 総合政策学部, 教授 (70279967)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 性欲理解 / キリストの人性 / エクラヌムのユリアヌス / アウグスティヌス / 真の人にして真の神 / 洗礼盤 / 成人洗礼 / 自由意志 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度の研究概要として二つの成果を指摘することができる。一つは、アウグスティヌスとエクラヌムのユリアヌスとの間の論争の書’Opus Imperfectum’の中でも、とりわけ人間の性欲に関する見解の相違が、論争全体の人間観に関わる両者の言説と如何に関わっているのかという点に注目し、性欲観の相違には、より根源的な人間観の相違、とりわけキリストの人性と神性の関係に関わる根本的相違が根底にあり、その違いを基に両者がそれぞれ独特な修辞的言説を構築している点を解明したことである。ユリアヌスにとって、性欲とは健全な人間本性の一部であり、人は自由意志によりその制御が可能との肯定的性欲評価を下す。むしろ問題は、性欲の過度な刺激による濫用である。従ってユリアヌスは、キリストは他の人間同様に性欲を有し、それを意志により制御することで人の模範となったと理解する。他方アウグスティヌスは、性欲自体は勝手に暴走する悪徳であり、キリストには悪徳としての性欲はなかったと解釈する。両者の相異なる修辞的論証には、かつてグリルマイアーが指摘した異端排斥に際しての3つの特徴全てが確認できた。 研究成果の第二点目は、昨年度末に北イタリアならびにローマ市において行った、洗礼盤やそれに付随する図像学的史料から、当時の教会内部に洗礼をめぐるどのような傾向が存在し、その傾向とペラギウス派との繋がりについて考古学的、美術史的側面からも考察を行った点である。その結果、4世紀末にまで遡るアクイレイアのモザイク図像群からは、当時、成人洗礼が中心的に実施されていたことを伺わせるモチーフが多数確認された。また、洗礼盤の形状からも、8角形ではなく6角形やギリシャ十字型の洗礼盤が、(ギリシャ)→アクイレイア→ローマ→ナポリ(ノラ)において存在し、この系譜がペラギウス派の拠点と重なるものと推察できることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
考古学的・図像学的調査が、役職(学部長職)により滞りがちとなり、昨年度末にずれ込んでしまったが、その成果や文献研究の方も、何とか当初の計画に近い水準にまで進めることができたので、以上の評価となった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、大きく二つを指摘することができる。一つは、研究対象であるアウグスティヌスとユリアヌスの論争の書、'Opus Imperfectum'における両者の人間観の相違について、性欲観や自由意志論に関する構造的、修辞学的文献研究をさらに推し進めながら、両者の主張が最後まで咬み合わず、結局のところ互いに決定的な相克を来すに至った主要な原因を突き止めたい。さらには、その主要因が、ローマ帝政末期当時の社会的、教会論的状況としての、ローマと北イタリアという地理的、地政学的相違と関連があったのか無かったのかについても考察を深め、よりマクロ的視点で、アウグスティヌスとユリアヌスの論争上の決裂の問題を解明したい。 二つ目は、考古学的、図像学的研究成果が少しづつ確認されつつある状況であるが、さらにこれを推し進め、アウグスティヌスとペラギウス派の人間学的、神学的に異なる言明は、アウグスティヌスの場合には、(エルサレム)→ミラノ→ローマ→北アフリカという地理的ネットワークに基づいて、他方、ユリアヌスはじめペラギウス派の場合には、(ギリシャ)→アクイレイア→(ラヴェンナ)→ローマ→シチリアという異なる地理的ネットワークによって伝播したのではないかという推論を、ラヴェンナやシチリア、可能であれば北アフリカにおける調査によってもさらに裏づけていきたいと考えている。
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