2015 Fiscal Year Research-status Report
危機と音楽:インドネシア・バリ島、スハルト政権崩壊後の〈聖なる音楽〉の複製
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15K02104
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
野澤 暁子 (篠田暁子) 名古屋大学, 文学研究科, 研究員 (20340599)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 音楽 / 危機 / 再興 / グローバリズム / 文化的アンデンティティー |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は概ね当初の計画通りに研究を実施することができた。前期は文献調査を中心的に行い、特に現代の音楽再興現象を包括的に取り上げたOxford University Pressの近著「Music Revival」を精読しながら当該研究対象の特質を相対化する作業を行った。その上で8月にインドネシア・バリ島での現地調査を実施し、ギャニャール県のスロンディン再興の実態調査を行った。調査では計画案に従って新興スロンディングループの設立背景やメンバー構成および活動文脈に関する聞き取り調査を集中的に行ったが、時間的な制約から実際の活動状況の深い参与観察に関しては今後の課題とした。しかしながらこの調査と並行し、スロンディン研究に関わる現地研究者とも交流を深め、有意義な研究協力関係を結ぶことができたことは一つの大きな成果である。さらに9月15日にはアイルランド・リムリックで開催されたICTM(国際伝統音楽評議会)とSEM(米国民族音楽学会)の合同研究大会で研究発表を行い、国際レベルでの成果発信を果たすことができた。ただしアイルランドでの発表が加わったことによる予算不足および後期の現地調査のための時間的・予算的な不足(結果的には3月後半に自費で短期調査を実施)という結果も生じた。しかしながら以上の活動実施状況振り返り、今年度は一次資料の収集と成果発信のための国際的ネットワークの構築を実現したという点において、初年度としては十分な活動成果であったと自己評価している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は当初の計画通りにインドネシア・バリ島のギャニャール県を中心とした新興スロンディン・グループに関する一次資料を収集し、同時に国際的レベルでの研究連携関係の基盤を構築することができた。予算的・時間的な不足事態も生じたが、当該研究の将来的な発展のためには十分な環境を準備することができた。研究の実質的進展としては、当初「危機と音楽」というテーマを設定したが、現地調査での行動分析から「想像」「記憶」という人間の創造行為を支える普遍的要素も考察に加える必要性を発見した。この経緯から「想像、記憶、モノ、身体」といったキーワードとともに文化人類学的視点から本現象を分析し、「想像の音楽再興」という主題の論文を執筆した。以上を振り返り、今年度は研究交流の拡大と考察の深化という点で、順調な進展を遂げたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の大きな成果の一つは、インドネシアおよび欧米の研究者との研究交流の深化である。さらに平成28年4月から7月末まで、当該研究に関係の深い東ジャワのインドネシア国立スラバヤ大学に外来研究員として研究滞在する運びとなった。また昨年応募した「国際共同研究強化」にも内定したため、この研究滞在期間中に二年目計画案の実施と並行して平成29年度に予定している国際共同研究に向けた計画案を具体化したいと考えている。現在は大きな転換期として音楽人類学(民族音楽学)のミッションの再定義が必要化されている状況もふまえ、当該研究を深化させると同時に世界的視座からの研究の意義および方法論を再検討することで、音楽研究の将来的可能性を導き出したい。
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Causes of Carryover |
今年度の予算については殆ど全額を使用したが、前半の現地調査およびアイルランドでの国際学会発表に使用した旅費を念頭に後半の使用を自主節制したことでわずかに予算が残る結果となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度はインドネシア・国立スラバヤ大学の外来研究員として長期渡航するため、その経費として使用する予定である。
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