2016 Fiscal Year Research-status Report
戦間期ドイツ/オーストリアにおけるジャズ受容についての歴史的研究
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15K02106
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岡田 暁生 京都大学, 人文科学研究所, 教授 (70243136)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ジャズ / ヨーロッパ / 戦間期 / ドイツ |
Outline of Annual Research Achievements |
アメリカがヨーロッパに代わって世界ヘゲモニーを握るようになる1920年代は、しばしば「ジャズ・エイジ」とも呼ばれる。ジャズと映画こそ世界を席捲し始めたアメリカニズムの文化的象徴であって、西洋音楽を基礎としつつヨーロッパ外のアメリカにおいて独自の音楽史が展開し始めたという意味で、また西洋音楽もアメリカニズムによる世界の文化的一元化の潮流に抗し得なくなったという意味で、これ以後のヨーロッパの音楽史はもはやヨーロッパだけでほぼ自己完結した歴史ではなくなる。本研究は、第一次大戦が終わった1918年から、ナチスが政権を取りジャズが禁止される1933年までの戦間期ドイツ/オーストリアの音楽状況をジャズ受容という視点から再検討すべく、その基礎資料の整理を目指すものである。平成28年度の実績としては以下の通り: ①ブルーノートをはじめとする戦後アメリカの著名ライブハウスやレコード録音会社の経営者には、1920年代をベルリンで過ごした亡命ユダヤ人が数多くいた。すなわち戦後のモダンジャズの歩みはある意味で、戦間期ヨーロッパにおける熱狂的なジャズ受容からの展開と見ることも出来る。本年度はこうした人々の伝記的背景や人間関係を調査した。 ②チェコとオーストリアはナチスの時代から多くのヨーロッパ系ジャズ・ミュージシャンを輩出した国であったが、大戦後はアメリカ進駐軍を通した刺激によって、多くの傑出した音楽家を生んだ。ミロスラフ・ヴィトウスやジョー・ザヴィヌルはその典型である。しかし通常、こうした音楽家たちは、「アメリカのジャズ史」の中へ回収されてしまい、彼らのヨーロッパ的出自はほとんど注意が払われてこなかった。本年度は、こうした戦後アメリカのモダンジャズとヨーロッパの戦前のジャズ伝統との接点を探るべく、初期のヴィトウスならびにザヴィヌルのヨーロッパでの活動を調査した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2017年1月にドルトムント大学図書館において資料調査を行い、1920年代のドイツにおけるジャズ受容の資料を収集し、またフランクフルト図書館において1930年代の同地の音楽院におけるジャズ科のカリキュラムについての資料を調査した。また戦後のドイツにおけるジャズ受容として、とりわけ1970年代以後に録音会社ECMが果たした役割に注目し、現代音楽(とりわけミニマルミュージック系)、ヒーリングミュージック、アンビエントミュージック、民俗音楽を加味しつつ、ポストモダンの時代の一種のメインストリームを形成するに至った同社の活動を、録音ならびに文献資料から明らかにすることができた。録音資料としては戦前ドイツにおけるジャズのレコードは極めて数が少なく、十分な成果をあげることはできなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
1920年代半ばよりヨーロッパでは頻繁にアメリカのジャズ音楽家たちのツアーが行われていた。ニューオリンズの高名なクラリネット奏者シドニー・ベシェは既に1925年に、ジョセフィン・ベーカーのミュージカルRevue nègreの伴奏オーケストラの一員としてヨーロッパ・ツアーを行っている(パリ、ロンドン、ベルリン、ソ連)。ジャズのレコードも大量に輸入されていて、シュールホフはダダイズムの画家ジョージ・グロスのところで、1920年代初頭からジャズのレコード・コレクションに親しんでいた。ベルリンやウィーンのような大都会では、ホテルのラウンジやダンスホールやキャバレーなどで、多くのヨーロッパ生まれの音楽家がジャズを演奏していた。さらにフランクフルト音楽院では、早くも1928年に、世界で最初のジャズ科が開設された。これら戦間期のジャズ受容を、音楽雑誌やコンサートホールの上演記録、あるいは図像資料(絵画のみならず新聞のカリカチュア等を含む)から明らかにするのが、今後の課題である。
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Causes of Carryover |
注文した洋書が年度内に到着しなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
納期に遅れた洋書は再度注文して今年度中に納入する。
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