2020 Fiscal Year Research-status Report
近代的演奏会の成立と変遷からみる音楽文化のグローバル化:欧州諸都市の比較研究
Project/Area Number |
15K02107
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
小石 かつら 関西学院大学, 文学部, 教授 (00636780)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | メンデルスゾーン / 演奏会要序曲 / 交響曲 / オーケストラ / 演奏会 / ライプツィヒ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「演奏会」に注目することで、多面的な音楽ジャンルの相互連関を明らかにすることを目的としている。演奏会に注目するのは、従来、音楽学が「作品」に注目してその実態を解明してきた歴史を踏まえ、作品が音として鳴り響く「場」に光をあてることにより、一回の演奏会で演奏されるジャンルを超えた作品群として、音楽を捉えることができるためである。本研究では、その結果をヨーロッパ諸都市における状況と比較することで、音楽文化のグローバル化の実態を解明することを目的としている。具体的には、ヨーロッパで最も歴史の長い民間オーケストラであるドイツのライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の創立(1781年)以来のプログラムの変遷をたどることを研究の主軸としている。 本年度は、そのプログラムに「記載されていた事項、記載されていない事項」に注目し研究を進めた。これまでの研究では19世記初頭の演奏会は「雑多な内容の組み合わせ」であるとされてきたが、その原因の一つに、プログラムに記載された情報量が少ないことがある。つまり「交響曲」といっても「誰」が作曲した「どの」交響曲か等が記載されていないことが多いのである。本年度はゲヴァントハウス管弦楽団のプログラムを、1781年から1804年まで、約20年間について調査した。その結果、記載事項は、音楽のジャンルごとによって明確に区別されていたことが明らかになった。例えば声楽作品は、作曲者名、タイトルやオペラ名などの作品名、歌手名、歌詞の全文が記載されていたが、協奏曲は、独奏楽器奏者の名前と楽器名が記されていた一方で、作曲者名も作品名(番号や調性等)も記されなかった。しかもこれらの記載内容は、慣習的に、極めて例外の少ない状態で常に守られていたのである。以上より、19世紀初頭は音楽文化の生成期で無秩序であったのではなく、別の価値観で受容されていたと捉えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ヨーロッパの各劇場の公演史について、現地で調査する計画であったが、コロナ禍によりまったく実施できなかった。しかしこれは2019年度末から予測されたことであったため、パリ、ロンドンについてはインターネット上で公開されたデータベースを使用して調査を進めた。研究全体としてはおおむね順調に進展しているが、現地での調査に勝るものはなく、さらに1年延長して機会をさぐりたいと願っている。特に、ライプツィヒでの研究については実現したい。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウィルスに関連する事情により、2021年度も現地調査ができない可能性はあると考えられる。そのため、各劇場が公開しているデータベースを使用することによる研究にシフトできるよう、調整してきたが、加えて、他の研究者との情報交換を活発に行いたいと考えている。具体的には、御茶の水女子大学の井上登喜子氏と、演奏団体のレパートリー形成についての資料情報の共有を考えている。また、ゲヴァントハウス管弦楽団のプログラム変遷の変革期に中核的な役割を果たしたメンデルスゾーンについて、彼が演奏会で取り上げた作品や、自身の作品の傾向分析を研究に組み込んでいく予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のために、海外での調査研究が実施できなかったため、次年度使用額が生じた。現地調査が可能となった場合は旅費として、海外調査が難しい場合は、現地で公開されている資料を、コピーや取り寄せ等によって入手するための費用にあてる計画である。
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Research Products
(1 results)