2016 Fiscal Year Research-status Report
日本伝統音楽の越境ー植民地台湾における「邦楽」の伝承
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15K02112
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
劉 麟玉 奈良教育大学, 教育学部, 准教授 (40299350)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
徳丸 吉彦 聖徳大学, 音楽学部, 教授 (00017138)
小塩 さとみ 宮城教育大学, 教育学部, 教授 (70282902)
福田 千絵 お茶の水女子大学, 比較日本学教育研究センター, 研究協力員 (10345415)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 植民地台湾 / 日本伝統音楽 / 邦楽 / 越境 / 音楽の伝承 / 音楽史 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の実績として、以下の3つがある。 第1は2016年8月25日から27日まで台湾台北市の中央研究院で開催された第5回国際伝統音楽学会(ICTM,)の東アジア音楽部会シンポジウムICTM-MEA(Symposium of the Musics of East Asia (MEA) ICTM Study Group)に参加して"Traditional musics of Japan in the colonial Taiwan (1895-1945)"という題目でパネル式の研究発表を行ったことである。1年目の研究成果を発表し、日本と台湾の伝統音楽研究を専門としている研究者から質問やアドバイスを受けたことで、この研究課題を日本の伝統音楽の歴史にどう位置づけるかという点に関して大きな示唆が与えられた。 第2は台湾台南市における現地調査である。現地調査は2017年3月28日から30日の3日間で行った。研究協力者の案内で、日本植民地時代に台南市内に建てられた演芸場や映画館の跡地を訪ねた。昨年度に実施した台北地区の調査に比べて、台南市では演芸場や映画館の痕跡がはっきりと残っていた。また今回の調査と昨年度の台北地区の調査との比較から、両市の文化状況の特徴が明らかになった。台北市では台湾人と日本人の演芸場の場所は明確に分かれていた。一方、台南市の場合は日本人と台湾人の居住地は混在していたため、両者が共通して利用する演芸場も存在し、お互いの伝統芸能や文化が交流した可能性が極めて高い。 第3はデータベースの作成である。前年度に引き続き、雑誌『三曲』と『台湾邦楽界』および日刊紙『台湾日々新報』における邦楽関連の演奏会記録やラジオ番組のデータベースを作成した。また、台北市の台湾神社の秋の祭礼に関連して行われた演奏会や芸能披露に関するデータベースを作成しほぼ完成させることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に調査した音楽雑誌『三曲』『台湾邦楽界』および日刊紙『台湾日々新報』に掲載された台湾における邦楽演奏会や邦楽演奏家に関する資料のうち、1920年代から1930年代の情報を分析し、平成28年度はそれらの結果に基づいて、研究代表者と研究分担者の全員が第5回国際伝統音楽学会東アジア音楽部会シンポジウムで研究発表を行った。徳丸が植民地台湾の伝統音楽の状況を概観した後、福田が雑誌『三曲』に掲載された情報に基づいて1920年代から1930年代の台湾における箏と尺八の奏者の活動について報告、小塩が『台湾邦楽界』に掲載された1933年から1934年にかけてのラジオ邦楽番組を分析し、『台湾日々新報』のラジオ欄から当時の台湾における日本伝統音楽の放送番組の位置づけを明らかにした。最後に劉が台湾神社祭りの際に演奏された音楽および演芸について、台湾と日本の伝統音楽の曲目を明らかにし、台湾人と日本人が互いの伝統音楽に触れ合う状況について報告した。 平成28年度に行った台南市の現地調査では、当時の日本人社会と台湾人社会が混在していたことがわかった。これは初年度に現地調査を行った台北市の社会状況とは大きく異なる。今後、両都市の邦楽関係者や師匠の居住地の分布図を作成すれば、それぞれの地域性の違いが明らかになると期待する。 昨年度から実施している各新聞雑誌(『台湾邦楽界』、『三曲』、『台湾日々新報』)に基づく邦楽関連データベースの作成も継続中である。ただし、ラジオ番組に関しては、その情報量が予想以上に膨大であるため、研究期間中にすべての情報をデータベース化することは困難であろう。植民地支配の情勢が比較的安定していた1930年代を中心にデータベース化を進めている。 なお、箏や三味線が当時の学校教育に導入されていたかに関連する情報は乏しく、平成29年度の夏にもう一度現地調査する必要性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
1つ目は、データベース化した音楽雑誌『台湾邦楽界』に掲載されている植民地台湾各地の師匠と邦楽奏者の住所録の情報を当時の地図上で点検することで、地理的・空間的に邦楽の伝承地域を考察することである。 2つ目は音楽雑誌『三曲』に掲載されている演奏会の曲目や、音楽雑誌『台湾邦楽界』のラジオ番組記録に記載されている曲目、日刊紙『台湾日々新報』に掲載されている台湾神社祭りの余興として演奏された邦楽関連曲目の3種類のデータベースを完成することである。ラジオ番組記録については、可能な範囲で『台湾日々新報』の情報も取り込む予定である。 3つ目はこれまでの研究成果を日本国内に向けて発信することである。9月以降に開催される国内学会の全国大会または例会で発表することを計画している。 4つ目は資料の追加調査を行うことである。植民地台湾の学校教育における邦楽の導入に関することなどこれまでに不足の情報や資料を夏までに収集する。 5つ目は報告書の作成である。その内容は、本研究で作成したデータベースや、国内外の学会で発表した原稿に加え、海外研究協力者の石婉舜氏と頼品蓉氏の研究成果を含める予定である。
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Causes of Carryover |
研究分担者による物品代の支出は予想以上少なかったためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は学会の全国大会で研究発表することを計画しており、その際の旅費に充当する。
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Research Products
(10 results)
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[Presentation] 「伝統へのまなざし」2016
Author(s)
徳丸吉彦
Organizer
日本と韓国の伝統音楽の交流音楽会
Place of Presentation
韓国:ソウル、国楽堂
Year and Date
2016-09-23 – 2016-09-24
Invited
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