2015 Fiscal Year Research-status Report
プロティノス美学におけるアイステーシスの位置づけ―受容と把握の機能をめぐって―
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15K02118
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Research Institution | Hiroshima City University |
Principal Investigator |
関村 誠 広島市立大学, 国際学部, 教授 (20269583)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | プロティノス / 感覚 |
Outline of Annual Research Achievements |
プロティノスにおける感覚の理論が彼自身の哲学に不可欠なかたちで組み入れられている点を明確にするために、まずは第1論文「美について」、また加えて第53論文「生命あるものとは何か、人間とは何か」を考察対象として、原典テキストの分析・考察を遂行した。第1論文「美について」の解釈においては、美の概念の特質を、〈形〉(eidos)をめぐる感覚認識と知性認識の諸様相の解析のもとに考察し、感覚がプロティノスの思想において果たしている積極的な面を、肉体に宿る美を知性的領域の美の〈似像〉(eikon)や〈痕跡〉(ichnos)として認める魂の〈判断〉(krisis)の能力との関係で明確にするよう試みた。その成果を、ギリシア彫刻作品の特質を感じ取ることとの関連で、イタリアのパレルモで開催された学会で発表し、その内容を論文集の中の一論文として刊行することができた。 また、感性的領域から知性的領域への移行としての〈逃避〉(phuge)の内実を、移行の出発点自体の重視も議論に見定めることで理解することを試み、その際、〈調和〉(harmonia)、〈類似〉(homoiotes)などの概念の扱われ方を同時に吟味しつつ、この議論の分析と考察を進めた。第53論文「生命あるものとは何か、人間とは何か」に関しては、魂と肉体の結合体としての「生命あるもの」における〈アイステーシス〉の働きの位置づけを明確にするため、魂による肉体の支配の様態を整理して、〈アイステーシス〉の機能の条件をより明確にするべく解釈を進めた。さらに、この論文においては、〈アイステーシス〉を二種類あるいは二段階に区別していると理解できる議論があり(7章と9章)、その区別の内実を、〈形〉や〈印影〉(tupos)の機能分析とともに考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初年度において、研究発表の機会をもつことができ、他の研究者との交流により、さらに考察を深めることができた。またその中で、プロティノスの感覚についての思想を、ギリシアの哲学の伝統のみではなく、現代の思想などとの関連でその意義を考察していく可能性を自覚することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
第1論文「美について」および第53論文「生命あるものとは何か、人間とは何か」の読解と分析をさらに進めて、そこで扱われた〈アイステーシス〉の機能の知的側面に関係する〈把握〉の機能とその意義にに関して、プロティノスの他の論文の用例と比較しつつ考察する。その結果を国際学会等で発表する。
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Causes of Carryover |
使用した物品費と旅費の残余として、303円が残った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
物品費とあわせて使用する。
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