2015 Fiscal Year Research-status Report
アンリ・デュティユー研究:20世紀ポスト調性音楽におけるシステムと自由の問題
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15K02120
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Research Institution | Tokyo College of Music |
Principal Investigator |
藤田 茂 東京音楽大学, 音楽学部, 准教授 (30466974)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | デュティユー / セリアリスム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、現代フランスの作曲家、アンリ・デュティユー(1916-2013)の音楽において、システムと自由、あるいは、計算と自発というポスト調性の時代の音楽創造で広く問われた問題が、どのように扱われ、また、どのように解決されているかを、この作曲家の音楽言語の理論研究と自筆譜研究とを循環させることによって、とくに和声の次元において検証することを目的としている。
平成27年度は、とくにパウル・ザッハー財団に豊富な自筆譜の残されている、『メタボール』『音色、空間、運動』『瞬間の神秘』を主たる対象として、研究を実施した。その結果、デュティユーが、これらの作品において、(これまでアンチといわれてきた)セリアリスムのアイデアに深く関わり、その観点から、システムと自由の問題を問い直していることが、明らかになった。デュティユーは、これらの作品において、彼の形成期に培われた5度あるいは4度堆積による和声の感覚と、音列として与えられる12音のシステマティックな操作とをいかに調停していくか、繰り返し、実験しているのである。その努力は、とくに「メタボール」のスケッチとフィナル・バージョンとの比較によって、跡付けることができた。
これにより、ジャーナリズムによってアンデパンダン(独立者)と形容されてきたデュティユーを同時代のコンテキストのなかで考察する根拠が得られ、また、「伝統の破壊者(セリアリスト)」対「伝統の擁護者(デュティユー)」という、デュティユー批評が用いてきた図式が、有効性を持たないことを、実証するデータを蓄積することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『メタボール』『音色、空間、運動』『瞬間の神秘』については、スケッチに残されたすべての異稿を確認する作業を完了することができた。ファイナルヴァージョンとの相違、また、異稿どうしの相違の意味については、今後も、検討を続けていくが、「彼の形成期に培われた5度あるいは4度堆積による和声の感覚と、音列として与えられる12音のシステマティックな操作との調停」という統一的な視点が得られたことで、デュティユーの音楽におけるシステムと自由の問題を、より具体的な相で読み解いていく準備ができた。当初は、『第2交響曲』の検討も合わせておこなう予定であったが、これは次年度に送ることとした。
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Strategy for Future Research Activity |
未完了である『第2交響曲』の検討を完了させ、彼の形成期に培われた5度あるいは4度堆積による和声の感覚と、音列として与えられる12音のシステマティックな操作との調停」という視点から、いったん結果を整理し、その後、今回の作品で副次的な対象と位置付けている、「カスーの2つのソネット」「交響曲第1番 」「前奏曲集」「夢の樹」「引用 」「コレスポンダンス」の検討を行う。また今後は、ウィーンのドデカフォニズムのパリへの移入が、いつ、どのように行われたのか、その歴史的な背景についても、調査を行う予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額のほとんどは、旅費において発生している。これは、当初予定していた滞在期間を若干、短くしたことと、国際情勢によってヨーロッパへの航空券の価格が下がる傾向にあったためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初の計画では、研究の最終年次においては、一度のみの海外渡航を行う予定であった。しかし、現在までに、さらなる調査のために、追加の海外渡航が必須であることが明らかになった。とくに、同じ、パウル・ザッハー財団に収められている自筆譜のうち、デュティユーに関連する、他の作曲家のコレクションを参照する必要がある。次年度使用分は、この調査に充てる計画である。
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