2015 Fiscal Year Research-status Report
古代日本の儀礼における芸能奏上の意義―日中比較と身体行動の視点から
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15K02122
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Research Institution | Toho Gakuen School of Music |
Principal Investigator |
平間 充子 (平間充子) 桐朋学園大学, 音楽学部, 非常勤講師 (90600495)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 日本芸能史 / 日本音楽史 / 日本古代史 / 中国芸能史 / 中国音楽史 / 雅楽寮 / 近衛府 / 百戯 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.朝廷の儀礼と奏楽に関する概観:日本古代の国家的な饗宴儀礼である節会、およびそれに準ずるその他の饗宴儀礼において、雅楽寮と近衛府とがその場で確認・表象される君臣関係が律令に基づくものであるか否かによって奏楽を分担・担当していることについてより具体的な解明を行った。更に、そこで振る舞われる酒食、下賜される衣はいずれも身体レベルで臣下の関係を深める役割を担っていたとの日本古代史の先行研究に鑑み、芸能を「行う」のみならず「視、聴く」ことが社会秩序を維持する身体行動として機能していた可能性を指摘した。 2.中国古代の百戯に関する考察:百戯(中国)と相撲儀礼(日本)の記事を分析し、両者に見られる異民族性と煬帝がとった異民族政策の特徴、特に日本の7世紀の相撲は百済からの使節への饗宴儀礼に於いて行われ、また辺境の服属民である隼人が中央へ朝貢した際に相撲人として奉仕していたことから、とりわけ煬帝が主宰したそれが日本の初期の相撲儀礼に大きな影響を与えていたこと、更には異民族あるいは服属地域の芸能を国家が掌握・披露する意義について指摘し、その日中における差異が支配の概念や国家の成り立ちの違いと関連していることを示唆した。 3.女楽の奏される儀礼に関する考察:古代日本の朝廷で行われた饗宴儀礼のうち、女楽が奏された場である内宴と菊花宴について、記録類と先行研究を整理しつつ分析を行い、その儀礼構造と社会的・政治的な意義を考察した。 1.についてはカザフスタン国アスタナ市開催の第43回国際伝統音楽学会(ICTM)、2.については中華人民共和国ウルムチ市開催の第11回中日比較音楽研究国際学術会議でそれぞれ個人研究発表を行った。また、2.については前年度までの研究結果と併せ英文の論文にまとめて勤務校の紀要に投稿し、掲載が確定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画として挙げたのは1.日中の儀礼と奏楽に関する概観 および2.「散楽」(百戯)に関する考察 の2つである。1.に関しては日本の饗宴儀礼の考察を進め、平成29年度に予定していた身体行動との関連性についてまで指摘することできたが、中国のそれに関しては調査ができていない。その理由は、ICTMの最終日に体調を崩し、消化器官をやられてしまったためその後1か月ほど自宅療養せざるを得ず、その間に予定していた中国関連の研究が大幅に遅れたからである。 2.については、当初予定していた古代日本における仏教寺院の芸能や現行の雅楽曲ではなく、7世紀の正史に見られる相撲儀礼の発生、および日中における異民族支配の概念の差異に関連付けて論をまとめることができた。 1.についてはカザフスタン国アスタナ市開催の第43回国際伝統音楽学会(ICTM)、2.については中華人民共和国ウルムチ市開催の第11回中日比較音楽研究国際学術会議でそれぞれ個人研究発表を行うことができた。更に、2~3月にかけて当初の予定になかった英文論文を1本完成し、次年度の予定であった女楽に関する考察のうち、日本において女楽が奏された儀礼である内宴と菊花宴についての調査を前倒しして進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
1.女楽に関する考察:荻美津夫などの先行研究に基づき、女性のみの奏楽機関である内教坊と、内教坊が奉仕していた菊花宴、内宴について芸能と儀礼の実態を明らかにし、また中国の内教坊および女性による奏楽と比較する。菊花宴、内宴が成立した嵯峨・仁明朝では中国風の文化や制度が積極的に導入され、特に内宴は天皇が中国風の文化に精通する文人を優遇し、彼らと個人的結合を強める役割を果たしていたとの指摘にも鑑み、女性による芸能が行われた儀礼の場は、従来とは違った新しい君臣関係を築くために設定され、また女性による芸能は中国に倣い成立・発達した可能性を指摘する。 2.朝廷の儀礼と雅楽寮・近衛府奏楽の意義ー身体行動と日中比較の観点からー:雅楽寮に関しては殿舎など儀礼の場と楽人の位置関係、近衛府に関しては奉献的側面についての考察を深めつつ、2本の論文にまとめて雑誌に投稿。 3.鼓吹に関する考察:稲田奈津子による葬送儀礼研究を参照しつつ日本の鼓吹の実態を明らかにし、中国では皇帝が臣下に鼓吹を賜ることによって礼制的身分秩序を構築していたとの先行研究に鑑み、日本で鼓吹が定着しなかった理由について分析する。 4.日中における儀礼の奏楽と支配の概念・構造に関する考察:岸辺成雄や渡辺信一郎などの研究を参照しつつ、主に隋・唐代で芸能が行われていた儀礼を概観し、そこでの芸能奏上の意義が両国の支配の概念や国家の成り立ちを反映していることを指摘する。また、「賜」と「奏」の用語の使い分けについても分析。 1.に関し第4回環太平洋アジア研究スペインフォーラム(6月、スペイン国バルセロナ市)、第5回ICTM音楽とジェンダーシンポジウム(7月、スイス国ベルン市)、および東アジア比較文化研究会議(8月、大韓民国ソウル市)にて、また2.に関し第5回ICTM東アジア音楽研究シンポジウム(8月、中華民国台北市)にて個人研究発表確定。
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Causes of Carryover |
1.海外で開催された学会に関する費用が予定より少額で済んだため。例えば11月に開催された第11回中日比較音楽研究国際学術会議では、宿泊費の大部分および飲食費・交通費を含む現地での必要経費の全てが先方負担となった。 2.第43回国際伝統音楽学会(カザフスタン国アスタナ市開催)の最終日に体調を崩し、消化器官をやられてしまったため、帰国後も1か月ほど自宅療養せざるを得ず、その間に予定していた中国関連の調査が滞ってしまった。11月の第11回中日比較音楽研究国際学術会議には上海音楽院の趙維平教授も出席し、そこで会った際に指導を仰ぐ予定であったが、こちらの下調べが指導を受けるまでのレベルに達することができず、趙維平教授への謝金も次年度以降繰り越しとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
国際学会への参加を5回に増やす。うち4回は確定、1回は査読中である。 また、中国史関連のものを中心に史料と参考文献の購入費用、および専門的知識の提供などに関する謝金へ充当する予定。
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Research Products
(5 results)