2015 Fiscal Year Research-status Report
日本の商環境デザインにおける美術の影響とその意義に関する研究
Project/Area Number |
15K02127
|
Research Institution | Kobe Gakuin University |
Principal Investigator |
橋本 啓子 神戸学院大学, 人文学部, 講師 (20610570)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 山口勝弘 / 商環境 / インテリア・デザイン / 倉俣史朗 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では1960~70年代の日本の商環境デザインを、「デザインにおける美術の影響」という観点から、1、美術家が空間構成にかかわったインテリア 2、インテリア・デザイナーあるいは建築家が手がけたインテリアの二つに大別しており、27年度は「1」の事例として美術家の山口勝弘の商環境デザインを文献調査および山口への聞き取り調査(2015年8月)を通じて検証した。 調査の結果、得られたおもな知見は、第一に、クラブ「ロマーナ」(年代不明、銀座、現存せず)という雑誌未掲載の商業インテリアの作例の発見である。同店は数年前まで開業しており、28年度以降、今回の調査で判明した関係者に聞き取り調査をしたい。次に明らかになったのは、山口の商環境デザインが、同時代の他のデザイナーの作例に比して、シュルレアリスムの美術とのかかわりが少ないとされてきたことの再検証の必要性である。今回の調査で、山口が瀧口修造に多大な影響を受け、それがインテリアにも影響を与えた可能性があることが判明した。また、山口が幼少時に東郷青児設計のアールデコ風の洋館に接したことも、彼の商環境への関心の遠因であったことが分かった。これらの新知見は、ニューメディアの環境的展開として捉えられがちであった山口の商環境デザインの再検証を促す事項であり、平成28年度に学会等で研究成果を発表したい。 本研究はまた、日本の商環境デザインの意義を欧米のデザイン学の文脈において検証することも目的としており、これに関して2015年7月にロンドン大学インペリアルカレッジで開催された第10回Arts in Society学会で倉俣史朗の商環境に関する論考を発表した。倉俣が戦時下の日本の風景にデザインの想を得たことを発表した結果、戦時下の風景という源泉はきわめて特異かつ地域性を超えたイメージ源泉であるとして、他国の研究者の関心を引いた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
27年度は1960~70年代に商環境デザインを手がけた美術家のうち山口勝弘と伊藤隆道の1、作例分析、2、関連資料の収集、3、作品データベースの構築を行う計画であり、文献調査の結果、おおむね順調に進展している。ただし、山口への聞き取り調査の結果、作家本人の体調不良の時期が長かったことを含む諸事情により、図面や写真は現存しないことが判明した。そのため、山口の作品データは、印刷媒体に掲載されている図面・写真を電子データ化してデータベースを構築する。伊藤については、文献調査を通じて作品分析を行っているものの、聞き取り調査に関しては作家本人の所在が分からず、現在、関係機関に連絡先提供の協力を依頼中である。そのため、伊藤の聞き取り調査、および図面等の収集は28年度に行う。
|
Strategy for Future Research Activity |
28年度は、伊藤隆道の聞き取り調査を行うとともに、27年度に明らかにした美術家による刺激を受けて、それらを積極的にインテリアに反映させた作家のうち境沢孝の商環境の作例を中心に検証する。境沢は、美術という源泉をもっとも直接的にインテリアに反映させた建築家であり、そのデザインはポップ・アートや概念美術、アルテ・ポーヴェラからの影響を受けている。境沢自身は他界しているため、彼が美術のどのような点に関心を抱き、そこで得た刺激をどのようにインテリアに反映したのか、という点を、境沢の残した著述や座談会記録の言葉から明らかにする。また、これを補うために、境沢の関係者に聞き取り調査を行い、写真・図面・書簡等を実見する。 あわせて、1970年代末に境沢とともに実験集団「ポエフォルム」を結成した岡山伸也(インテリア・デザイナー)、森豪男(インテリア・デザイナー)、横山直人(ガラス作家)にも聞き取り調査を行い、境沢のもっていた美術に対する考えを浮かび上がらせる。境沢の作例や彼の周辺作家の作例もデータ化し、データベースに追加する。
|
Causes of Carryover |
伊藤隆道への聞き取り調査が、本人所在不明により実施できなかったため、その旅費が未使用となった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
伊藤隆道への聞き取り調査のための旅費に使用する。
|
Research Products
(1 results)