2015 Fiscal Year Research-status Report
マニエリスム形成期における記憶術の影響についての研究
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15K02131
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
足達 薫 弘前大学, 人文学部, 教授 (60312518)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ルネサンス / マニエリスム / 記憶術 / 絵画 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年9月10日から9月22日まで、イタリアのパルマおよびローマにおける美術作品および文献資料の調査を行った。パルマでは、サン・パオロ女子修道院(現在は美術館)における「アラルディの部屋」(アレッサンドロ・アラルディによる制作、1514年頃)と通称「カメラ・ディ・サン・パオロ」(コレッジョ、1519年から20年頃)の観察、撮影、分析を行った。前者については、世界的にもまとまった研究がほとんどない例であることから、基本的な観察ノートを作成した。記憶術における場所の分割と「力強いイメージ imagines agentes」(以下の文献では「賦活イメージ」というきわめて適切な訳語が用いられており、本研究をまとめるにあたり、大いに参考にしたい。水野千依『イメージの地層』名古屋大学出版会、2011年)の配置という原理とのつながりは明らかだが、グロテスク文様によってその効果が弱められていることが分かった。おそらくその欠陥を補うとともに、(グロテクスとともに、あるいはそのオルタナティヴとして)同時代ローマで発展しつつあったキアロスクーロ技法を適用した「第二の試み」が後者であると思われる。 その他、ローマのヘルツィアーナ図書館および国立中央図書館で日本では入手やアクセスの難しい文献資料を精読・転写・複写した。これまでの私の研究は主に一次文献に集中していたため、研究史の正しい把握や、前述の訳語のように正確とは言えない理解がしばしば生じていたので、特に今回は二次文献の調査に注力してその点を修正しようとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた2つの絵画的モニュメントの調査を通じて、それらは「記憶術的営みの絵画への応用」であるとともに、同じサン・パオロ女子修道院のジョヴァンナ・ダ・ピアチェンツァ修道院長による「実験と修正」の試みとして解釈されうるという仮説が得られた。細部については省略するが、フランシス・イエイツからダニエル・アラスへの研究史的流れの中で浮彫にされた「ルネサンス美術と記憶術の関係」というテーマは確かに有効であり、パルマの事例はその展開に必ずや貢献するであろうことが確信された。 調査の過程で、同時代の記憶術と美術史の関連性を示唆する資料であるミケランジェロ・ビオンド『この上なく高貴な絵画について』の翻訳と註釈にも取り組み、その前半の一部を出版した。本研究の副路線として発表を続けていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度はその仮説を実証するべく文献資料を精読し、論理的に組みたてていく作業に取りかかることができる。同時に、フォンタネッラート(パルミジャニーノによる装飾、1523~24年頃)におけるもうひとつの事例を調査し、そちらのモニュメントとも結びつけていくこととする。 これらについては「ルネサンス美術における魔術的なもの」と題する集中講義を東北大学で行う予定であり、そのリアクションを取りこんだ論文(英文)を作成し、海外の美術史学関係雑誌に投稿する努力をしたい。 なお、フォンタネッラートの事例については、注文者と思われるジャン・ガレアッツォ・サンヴィターレが魔術やカバラとも密接に結びついていたことが分かった。28年度以降は、当初の計画ではフォンテーヌブローのフランソワ一世のギャラリーにフィールドワークの場を拡げる予定としていた、しかし、そちらは時期と直接的関連性が薄いため、さしあたり予定から外し、マニエリスム形成期における「魔術的なもの」の影響という観点から別の作例(パルミジャニーノ《薔薇の聖母》と《聖ステパヌスの聖母》)の調査を行うことを検討している。
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