2016 Fiscal Year Research-status Report
マニエリスム形成期における記憶術の影響についての研究
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15K02131
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
足達 薫 弘前大学, 人文社会科学部, 教授 (60312518)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | イタリア美術 / マニエリスム / 記憶術 / 魔術 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は2回の海外調査を行い、16世紀初期のイタリア絵画における記憶術の影響、特に「力強いイメージ(imagines agentes)」の創造プロセスの再現もしくは同調の形跡を確認した。2016年9月のイタリアでの調査では、ロッカ・ディ・フォンタネッラートにおけるパルミジャニーノのいわゆる「小部屋(カメリーノ)」、カメラ・ディ・サンパオロにおけるコレッジョの装飾、パルマ国立美術館、フィレンツェのウフィツィ美術館、ローマのカステル・サンタンジェロにおける「クレメンス七世の浴室」の観察と分析を行うとともに、ヘルツィアーナ図書館および国立中央図書館での資料収集を行った。なお、フォンタネッラートの調査ではガイドツアー形式を避けられず、時間的にきわめて不十分であった。そのため2017年度は十分な時間を得られるようにしたい。 2017年3月のフランスでの調査では、フォンテーヌブローの「フランソワ一世のギャラリー」を詳細に観察・撮影し、従来公開されてきた図版等では確認し得ない細部について分析することができた。また、ルーヴル美術館にあるフォンテーヌブロー派の絵画についても詳細に検討することができた。 本年度は、作品分析に関わる16世紀当時の文献資料のほぼすべてがインターネットでデジタル公開されているため、必ずしも必要ではない図書を購入する無駄を避け、作品の観察と分析に徹底することにした。この点では当初の予定と相違したが、むしろ積極的な結果を得ることができたと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定であった3つの絵画的モニュメント(パルマのカメラ・ディ・サン・パオロ、フォンタネッラートの「カメリーノ」、フォンテーヌブローの「フランソワ一世のギャラリー」)の調査をほぼ完了したが、フォンタネッラートに関してはガイドツアー形式で見学せざるを得ないというハンデがあり、2017年度再び観察に赴かなければならない。 3つの絵画的モニュメントにおける記憶術的意匠に関してはほぼ特定できたが、さらにいくつかの興味深い作例(ジェノヴァのパラッツォ・ドーリア・パンフィ-リ、ローマのカステル・サンタンジェロ内「サラ・パオリーナ」、ローマの市内に残存するポリドーロ・ダ・カラヴァッジョとマトゥリーノのフレスコ)の発見、さらに記憶術の魔術的側面への注目という新たな観点が得られた。そこから、ドレスデン国立絵画館に所蔵されるパルミジャニーノの絵画(《薔薇の聖母》と《聖ステパヌスの聖母》)と錬金術的イメージ(これは記憶術の「力強いイメージ」ときわめて強い同調性を有している)についても精密な分析が必要であることが明らかになってきた。 こうして本年度は、3つのモニュメントに関する調査を順調に進めるとともに、その過程において、記憶術の魔術的側面へ着想が広がった。また、資料分析の参考とするために検討した江戸時代の日本の記憶術文献についてきわめて興味深い視点(イエズス会の宣教にともなう「場所法」記憶術の原理の輸入と発展)が得られた。このこともまた本研究の豊かな成果につながるだろう。 なお、今年度は資料収集に経費を使用せず、すべてを旅費の補助に充てたことに触れておきたい。これは、作品分析に関わる16世紀当時の文献資料のほぼすべてがインターネットでデジタル公開されているので、必ずしも必要ではない図書を購入する無駄を避けるためである。
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Strategy for Future Research Activity |
いまだ不十分なフォンタネッラート、さらに新たに発見されたジェノヴァのパラッツォ・ドーリア・パンフィ-リ、ローマのカステル・サンタンジェロ内「サラ・パオリーナ」、ローマの市内に残存するポリドーロ・ダ・カラヴァッジョとマトゥリーノのフレスコ、さらにドレスデン国立絵画館に所蔵されるパルミジャニーノの絵画(記憶術の魔術的側面およびそれに関連する錬金術のイメージとの関係について)の調査を行うとともに、記憶術における魔術的側面に焦点を当てて資料調査を進め、論文を投稿もしくは発表することを目指す。特に、アグリッパ・フォン・ネッテスハイムの『隠された哲学三書』における美術論的側面は本研究の歴史的文脈を構成するきわめて重要な要素と考えられるため、この文献の読解およびそれに基づく作品論の可能性を追求していきたい。 2017年度は以下の4つの焦点とともに研究を進めていく。(1)当初予定していた3モニュメントにおける記憶術的要素をまとめつつ、論文ないし著作を提示することを目指す、(2)それ以外のモニュメントの調査と分析、(3)資料収集と分析を行いつつ、アグリッパのテクストを中心とする文献的研究を行い、その成果を論文として発表もしくは投稿する、(4)江戸時代の記憶術におけるイエズス会の宣教との関係の調査。 海外調査は2回を予定している。
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