2017 Fiscal Year Research-status Report
マニエリスム形成期における記憶術の影響についての研究
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15K02131
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
足達 薫 弘前大学, 人文社会科学部, 教授 (60312518)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | イタリア美術 / マニエリスム / 記憶術 / 魔術 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は9月と2月の2度にわたり、イタリアでの作品調査および文献資料調査を行った。目的と成果は次の通りである。 1:ジェノヴァ、パルマ、フォンタネッラート、ローマでの調査(9月):美術における記憶術の影響という本研究のテーマから派生した「古代からの影響とグロテスクの展開」に関して、ペリン・デル・ヴァーガ、アレッサンドロ・アラルディ、パルミジャニーノ、ピントリッキオによるグロテスク装飾およびそのバリエーションの観察・分析・撮影を行った。この調査に基づく成果は、『黎明のアルストピア』(ありな書房、2018年5月刊行予定)における第4章「ピントリッキオのアパルタメント・ボルジア」として刊行予定、さらに2018年2月に東北大学文学研究科に提出した博士論文『15世紀末から16世紀前半にかけてのイタリアにおける美術の変容に関する研究』の第1章に含まれている。さらにローマにおいて資料調査を行い、1-1の考察のための基礎資料を収集するとともに、コレッジョによるカメラ・ディ・サン・パオロ(パルマ)における記憶術・魔術の影響を証明するための資料も分析した。また、記憶術的文化と詩と絵画の影響関係を考察したリナ・ボルツォーニ『クリスタルの心』(原著はイタリア語)の翻訳を行い、出版した(ありな書房)。 2:ローマでの調査(2月):ピントリッキオのアパルタメント・ボルジアの撮影調査を継続するとともに、ラファエッロ派による「モノクローム絵画」の作品調査を行った。この調査は天候および修復調査中という事情から完全に達成することができず、次回の調査に委ねることとした。資料調査も続行し、コレッジョのカメラ・ディ・サン・パオロに関する論考の基礎的準備を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、記憶術と絵画に関する問題を扱った翻訳書を交換するに留まったが、ピントリッキオのアパルタメント・ボルジアを分析した論考が2018年5月に刊行予定(ありな書房)であり、調査内容の成果発表は滞っていない。なお、平成28年度後半以降、イタリアのマニエリスムを全体的に捉え直すためには、記憶術に留まらない「魔術一般」、さらにグロテスクを中心とする「古代的なるもの」からの影響へと考察・調査範囲を広げることが必要だと判断された。そのため、30年度は記憶術と美術の影響という本来のテーマを総合的に考察することが必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
前述のように、本研究のテーマである記憶術と美術の関係から「魔術一般」および「古代的なるもの」からの影響へと範囲を広げてきたが、最終年度である30年度は、このテーマ全体を見通す英語論文、およびコレッジョのカメラ・ディ・サン・パオロに的を絞って考察することで、本研究の総括とする。さらに、2017年2月に提出した博士論文に基づく出版活動にも検討し、可能な限り進めて行きたい。 加えて、記憶術における形態や図像の誇張や歪曲は、記憶術のみの問題にとどまらず、グロテスク、同時代の喜劇的文学・演劇文化とも関わる大きな問題の中で捉える必要があることが分かってきた。美術におけるマニエリスムの再定義のためには、「ベラ・マニエラ(美しい様式)」を至高するマニエラーイズムという概念に対置される、「ゴッフォ(醜悪なもの、奇怪なもの)」を志向する「ゴッフィズム」(美術史学者バロルスキーがかつて提案したもの)の可能性を実証的かつ広い文脈で分析することが効果的であると考えられる。 本研究の締めくくりとなる本年度は、この新しいテーマに取り組む準備としてもきわめて重要である。次年度の科学研究費申請では、本研究を土台にしながら、「ゴッフィズム」(仮)に関する研究組織を立ち上げることを目指したい。
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Remarks |
東北大学大学院文学研究科へ提出(2018年2月22日)した博士論文『15世紀末から16世紀前半にかけてのイタリアにおける美術の変容に関する研究』(全4章構成)の各章には、本研究課題によって得られた顕著な成果が含まれている。
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