2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K02132
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
元木 幸一 山形大学, 人文学部, 名誉教授 (10125669)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ユーモア表現 / ミゼリコルディア / マクデブルク大聖堂 / 賢い乙女と愚かな乙女 / イスラエル・ファン・ネッケネム / トゥティウィルス |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)北ドイツの教会、美術館、博物館等において版画、絵画、彫刻などのユーモア美術作品を詳細に調査した。具体的には、トリーア、コブレンツ、マリア・ラーハ、ハンブルク、リューベック、リューネブルク、マクデブルク、ハノーファー、コルヴァイ、マールブルクの教会、美術館における作品である。 (2)特にマクデブルク大聖堂を中心として、リューネブルク、リューベックの諸教会をくわえ、ミゼリコルディアのモティーフ分析を実施した。さらにミゼリコルディアがどのようなユーモア表現の手段を利用したかを解析した。さらにミゼリコルディアがミサの儀式とどのように関連するかを説教集などの資料に基づき解釈した。それらの成果は、新約聖書図像研究会第16回例会において報告し、好意的に受けとられた。 (3)ユーモア美術の具体的例として笑顔表現をとりあげ、マクデブルク大聖堂彫刻《賢い乙女と愚かな乙女》を中心に分析した。さらに12世紀から13世紀までの変遷を追跡するため、マクデブルクから、ケルン、バンベルク、ナウムブルク、マインツ、バーゼル、ストラスブール、エアフルトなどの大聖堂における笑顔表現を分析した。特に「賢い乙女と愚かな乙女」を中心としてキリスト教図像学的分析を実施した。また、これら笑顔表現と宗教史の関係を、メヒティルト・フォン・マクデブルクを中心とするベギン会の活動と結びつけて解釈した。 (4)版画の分析では国内で展覧会が開催されたイスラエル・ファン・ネッケネムとルーカス・クラーナハを中心として、具体的に実施した。 (5)ゴシック時代からルネサンス、バロックにかけて、絵画、版画、彫刻などにおける多様な笑顔表現の意味を解釈し、その成果を山形美術館における連続講座「笑いの西洋美術史」において5回にわたって報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)ミゼリコルディアの調査研究は、マクデブルク大聖堂を中心とし、リューネブルク、マールブルクの諸聖堂をくわえて、詳細に実地調査した。これにてドイツの実地調査は終了とする。また、特にミゼリコルディアのモティーフとして、トゥティウィルスという、礼拝における司祭や女性のおしゃべりを記録する、ユニークな悪魔の表現に注目した。トゥティウィルス・モティーフは、ミゼリコルディアだけでなく、ボン大聖堂やマリア・ラーハ修道院付属聖堂の内陣仕切りや西方面柱頭などにも現れ、それら図像の機能や意味の分析を進めた。このモティーフは、教会におけるユーモアのあり方を考察する上できわめて興味深い例であり、ジャック・ド・ヴィトリなどの説教集に登場するという点で、言語による説教とイメージによる教会美術の関連を具体的に示す好例となる。 (2)そのトゥティウィルスを版画や素描にも探索し、イスラエル・ファン・ネッケネム銅版画やアルブレヒト・デューラーの素描や木版画などにその例を見い出した。それはミゼリコルディアなどの教会美術と版画・素描芸術との密接な関連を物語ることになるだろう。宗教美術諸ジャンル相互の関係の追究である。 (3)さらにトゥティウィルスから他の悪魔の笑顔表現へと考察を進め、中世末期宗教美術の中心に悪魔の笑顔を措定することができた。具体的には、最後の審判図像周辺にも例を見いだすことができる。 (4)前年度に進めたファン・エイクを例としたブルゴーニュ宮廷美術におけるユーモア美術の分析は、ヘラルト・ダーフィトなどファン・エイク以外の画家をも取り上げ始めた。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)マクデブルク大聖堂のミゼリコルディア彫刻分析から、フランス、ネーデルラントのミゼリコルディアへ分析を進め、多彩なモティーフを分類し、それぞれのモティーフ毎の分類が、ドイツとどのように異なるかなど各地域毎の特徴を明らかにする。 (2)ミゼリコルディアにおけるトゥティウィルスという悪魔モティーフをさらに写本挿絵まで探索を進め、それによって彫刻、絵画、版画など各メディア相互の関係を解明する。それは教会儀式と美術の関係を具体的に明らかにすることでもあるゆえに、それによって教会におけるユーモアの意味が具体的に明らかになるだろう。 (3)悪魔の笑顔分析をまとめ、美術における笑顔表現の意味の多様性を解明する。さらに悪魔の笑顔と対照的な明朗な笑顔の例を〈賢い乙女と愚かな乙女〉に追跡する。この二つの側面からの分析により、笑顔の二面的な解釈が可能となろう。 (4)ブルゴーニュ宮廷におけるユーモア美術の探究をすでに行ったファン・エイク以外の画家、写本挿絵画家などに進める。それらによって、教会芸術におけるユーモアと宮廷芸術におけるユーモアの相違を解明する。それはユーモアの多様性の探究ということになるだろう。 (5)上記研究について論文を発表し、さらに以上の分析から、年度末には報告書をとりまとめ発行したい。
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Research Products
(2 results)