2017 Fiscal Year Research-status Report
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15K02133
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三浦 篤 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10212226)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | マネ / 検閲 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は研究時間が少なかったが、それでもワシントンのナショナル・ギャラリーにおいて海外調査を行った。性表現主題関連作品として《オペラ座の仮面舞踏会》(1873)を、政治主題関連作品として《老音楽師》(1862)を実地調査し、当該作品に関するデータや関連資料を収集したのである。調査結果に基づき分析した結果、《オペラ座の仮面舞踏会》は華やかな主題の中に売春のテーマが含まれている点が、構図、彩色、筆触の独自性とともに、サロンで落選した理由であると解釈できた。《老音楽師》はナポレオン3世のパリ改造計画の影の部分に対するマネの冷静なまなざしがうかがわれ、《テュイルリーの音楽会》と対になるようなパリの場末の周縁的、境界的なイメージであることが判明した。 年度の後半においては、政治主題、性表現主題、宗教主題の関連作品別に、これまでの研究成果を分析、整理することに努めた。特に、重要作である《草上の昼食》(1863)、《オランピア》(1863)、《フォリー・ベルジェールのバー》(1882)に関する、当時の新聞雑誌の批評記事を読み込むことに傾注した。 さらに、これまで発表してきたマネに関する論文を中心に、今回の研究成果を盛り込んだ単著の刊行を目指して、鋭意執筆を行った(『西洋美術史におけるエドゥアール・マネ(仮題)』、角川書店から平成30年に刊行予定)。「マネと過去」「マネと現在」「マネと未来」という三部構成にして、西洋絵画史におけるマネの作品の特質と歴史的な意義を深く掘り下げる研究書となる予定で、約8割の原稿を書き上げた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請者は、平成29年度に東京大学総合文化研究科超域文化科学専攻の専攻長となり、学内行政業務に忙殺されて研究に充てる時間がきわめて限られてしまった。予定していたアメリカへの海外出張もワシントンのナショナル・ギャラリーだけになり、ボストン美術館とニューヨークのメトロポリタン美術館には調査に行けなかった。したがって、研究期間を延長し、平成30年度に残りの調査を終えて計画の遅れを取り戻し、研究のまとめに入るつもりである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は重要な学内行政職から解放されたので、滞っていた研究計画を遂行したい。海外調査に関しては、アメリカのボストン美術館でマネの《皇帝マクシミリアンの処刑》の第1ヴァージョンを、メトロポリタン美術館(ニューヨーク)で《死せるキリストと二人の天使》、《エスパダの衣装を着たヴィクトリーヌ嬢》を調査し、資料収集に努めたい。日本では、これまでの調査研究に基づき、政治主題、性表現主題、宗教主題の関連作品を検閲という視点から総合的に考察し、成果をまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
平成29年度に東京大学総合文化研究科超域文化科学専攻の専攻長となり、学内行政業務に忙殺されて研究に充てる時間がきわめて限られてしまった。予定していたアメリカへの海外出張もワシントンのナショナル・ギャラリーだけになり、ボストン美術館とニューヨークのメトロポリタン美術館には調査に行けなかった。平成30年度に残った調査を終えて計画の遅れを取り戻し、研究のまとめに入る予定で、そのための予算として旅費、資料代、謝金、消耗品代などを考えている。
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