2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K02137
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
伊藤 大輔 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (00282541)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 美術史 / 中世絵画史 / 絵巻物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、研究期間の二年目に当たる。基本的には、展覧会での熟覧を中心に研究対象となる作品の実地調査を推進した。特に九州国立博物館で10月4日~11月20日にかけて行われた「京都高山寺と明恵上人 特別公開鳥獣戯画」展では、本研究課題にとって重要な「鳥獣戯画」全巻を詳細に検分した。また「鳥獣戯画」における白描表現の源流を考察する際に重要な問題として藤末鎌初期における宋画移入という研究テーマがあるが、これに関わる重要作品である「明恵上人樹上坐禅像」や「華厳縁起絵巻」についても熟覧した。 上記調査の成果を踏まえて昨年執筆し書き留めておいた「鳥獣戯画」に関わる論考を大幅に増補改訂した。さらにこの研究を軸として、後白河院政期における宮廷絵画と権力の関係性について考察し、同様の問題を後鳥羽院政期、後堀河院政期、後嵯峨院政期、両統迭立期、後醍醐執政期にまで拡大して論文を執筆した。当該論文は、『天皇の美術史 第二巻 治天のまなざし、王朝美の再構築 鎌倉・南北朝時代』(吉川弘文館)の第一部として、平成29年2月に出版された。ここにおいて、本研究課題の第一段階となる宮廷絵画史の体系化の基本的枠組みを提出することに成功したと言える。今後はこの骨組みに肉付けをしつつより細かい問題を詰めて行く作業へと移行する。 また本年度は、上記した関連分野である宋画移入の問題に関して研究を進めた。特に「明恵上人樹上坐禅像」に焦点をしぼり、この作品が羅漢図と関係するという従来の説について改めて批判し、本質的には明恵が研究した華厳思想に基づいた世界観が表象されていることを明らかにした。その上で、水墨画的な描線や南宋山水人物画の型によったと思われる人物像を小さく山水景を大きく取り入れる構図等も華厳思想の表明の為に取り入れられていることを論じ、様式の移入と思想の関係性について新たな解釈視点を提示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究期間の二年目であるが、中でもこの時期の研究対象としていた後白河院政期における絵巻論について論を深めることが出来た。この時期の代表作である「信貴山縁起絵巻」は奈良国立博物館において4月9日~5月22日の期間全巻展示が行われ、詳細に画面を観察することが出来た。また同様に重要な作品である「鳥獣戯画」についても秋口に九州国立博物館で全巻展示され熟覧の機会を得ることが出来た。 「信貴山縁起絵巻」に関しては既に何本か論文を執筆しているが、本年度は上記『天皇美術史 第二巻』において旧研究を踏まえつつ、院政期絵巻における後白河にすべてを還元するような解釈傾向を批判することが出来た。また、「鳥獣戯画」については院政期絵画研究における強力な解釈視点であった「風流」について批判的な再考を行い、この絵巻がそれとは対抗的な「過差禁制」の美意識に基づくことを具体的に指摘し、院政期の作品の系譜付けを「風流」と「過差禁制」の二つの美意識の緊張関係の中で体系化する枠組みを提示した。また、「過差禁制」の美意識が、宋風受容など次の時代の新しい表現傾向を受け止める基盤になったことも指摘した。 また、後白河院政期のみならず、後鳥羽上皇の美術戦略、両統迭立期における宮廷芸能の使い分けの問題についても論を進めた。この結果、本研究課題である鎌倉時代における宮廷絵画の体系化という問題に対して、大枠としての見通しを得ることが出来たと共に、それを著書として出版することもできた。 さらにこの経験を踏まえて新たな問題意識も発生し、鎌倉絵画史体系化に従来強い影響を及ぼしていた公武対抗史観を批判することが、今後の課題であると認識した。すなわち問題意識、考察対象等を明確かつ自覚的に把握することに成功したと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針としては、大きく二つのことを考えている。一つは、本研究課題の根の部分を構成する後白河院政期の絵巻研究をより詳細に進めること。もう一つは、上述のように鎌倉時代絵画史を体系化する際に便利に使われていた公武対抗史観という観点を批判し、修正してゆくことである。 第一の問題に関しては、本研究課題において特に重視されている「鳥獣戯画」の研究を引き続き深めてゆくのが当面の課題である。特に本絵巻研究の中心課題である主題論、すなわち何を描いたものなのかという問題についてより突っ込んだ解釈を提示したいと考えている。通常、この問題を考察する場合は、各場面が何を描いたものなのかという描写対象の考察が中心的課題となるが、そのようなアプローチでは多様な主題をすべて拾い上げた統一的な解釈は提出しにくい。そこで当該筆者は、視点を変え形式的な側面から解釈を進め、当時の芸能のあり方や芸能が享受される場なども精査しつつ、「鳥獣戯画」の主題について新たな解釈を提示したいと考えている。 第二の問題については、承久の変以降、公武はむしろ融和的な傾向を推進していたという文献史学の成果を取り込みつつ、具体的には武士の表象のされ方について絵巻物や肖像画を通じて考察を進めて行きたいと考えている。例えば「男衾三郎絵巻」では、貴族対武士、男性対女性、都対田舎といった対向関係がジェンダー論的な視点から析出されているが、こうした通説に対し、別の解釈を提示したいと考えている。またこうした個別絵巻の研究を通じて、未だ十分な体系化が成されていない鎌倉後期の絵巻を体系化する枠組みづくりも進めたいと考えている。 さらに、いわゆる神護寺三像のような武士を描いた肖像画についても、単に権威の表象と言った公武対抗的な視点のみでなく、公武融和の観点からの解釈も試みたい。
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Causes of Carryover |
調査用の機材について、実際に使用しつつ、必要な機能もしくは必ずしも必要ではない機能等を見極めながら、追加で必要なものを購入することを予定していた。しかし、機材の機能進展のスピードが速く、価格と機能のバランスなどの観点から適当な機材について十分確信をもつことが出来なかったため、予算消化を目的とした使用を避ける意味で次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度繰り越し分については、上記の方針に基づき、必要な機材について、価格面にも留意しつつ適宜購入に努めたいと考えている。
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Research Products
(2 results)