2015 Fiscal Year Research-status Report
アルカディアのイメージ世界:ピエル・ヤコポ・マルテッロと視覚芸術
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15K02140
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
高橋 健一 和歌山大学, 教育学部, 准教授 (70372670)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | マルテッロ / アルカディア / 良き趣味 / バロック / ペトラルカ主義 / マリーノ主義 / マニエリスム / ボローニャ |
Outline of Annual Research Achievements |
ボローニャのラヌッツィ館(現在の控訴裁判所)のギャラリー天井にヴィットリオ・マリア・ビガリが1724-1725年に実現したフレスコ画について調査・研究を進めた。そのフレスコ画には、詩人で劇作家のアルカディア・アカデミー会員ピエル・ヤコポ・マルテッロが図像プログラムを提供している。 ポレッタの温泉をカスタリアの霊泉と比べるこの装飾が、ラヌッツィ家の当の封土の拡大を契機として計画されたと、先行研究は論じている。本研究は、ピンダロスの『ピュティア祝勝歌集』をマルテッロのプログラムの着想源とみなすことで、この図像のより深い読解を試みた。ラファエッロの《パルナッソス》を間テクストとして利用するこのビガリ作品は、形式と情報伝達の方法の「繊細さ」の点で、従来の天井画とは異なる。それがマルテッロの修辞学と親和性をもち、バロックを超える新たな「良き趣味」を具現することを明らかにした。 このアルカディア・アカデミー(アッカデミア・デッラルカディア)は1690年にローマで創設された文学アカデミーで、現在もなお同地にその本拠を置いて活動を続けている。本研究の成果は論文としてまとめられ、同アカデミーの紀要『Atti e Memorie dell'Arcadia』に投稿されて、本年1月に採択が決定された。 また一方で、マルテッロの版本挿絵の問題にも取り組んでいる。その挿絵がいかに機能しているのかを見極めるためには、この詩人・劇作家の著作の内容を知る必要がある。平成27年度の後半はその読解作業に多くの時間を当てた。その結果、彼の版本挿絵は、その著作の理念をよく反映し、版本挿絵の歴史にも重要な位置を占めることが理解された。その考察の成果は現在論文のかたちにまとめているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のとおり、本計画の開始後に取り組み始めた研究の成果が、論文のかたちで公刊されることが決定された。その発表の場も本研究にふさわしいと考えられる。 その後に取り組んでいる版本挿絵の問題についても、一通り資料の読解を終えて、いくつかの新知見をえることができた。 次に考察すべき舞台美術のテーマについても、資料収集をすでにある程度進めることができている。準備が整い次第、読解作業に入りたい。
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Strategy for Future Research Activity |
版本挿絵の研究が論文のかたちにまとまり次第、マルテッロ演劇の舞台美術の問題に取り組みたい。具体的には彼の『新旧悲劇論』(1715年)などの演劇論にある上演に関する記述を分析しつつ、同時代の演劇実践との関係を考察していく。 一方で、マルテッロの建築論、美術論については、すでに本計画の開始前に2本の論文を執筆、投稿しており、いずれも公刊されている。準備が整い次第、こうして実現した5つの論文に調整を加えて本のかたちにまとめたい。
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Causes of Carryover |
平成27年度に購入を予定した図書資料の入手に困難が生じたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度の図書資料購入費として使用する計画である。
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Research Products
(2 results)