2015 Fiscal Year Research-status Report
ラグーザの未公刊史料を通してみる近代イタリアにおける美術・工芸を巡る状況の研究
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15K02152
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Research Institution | Kyoto University of Art and Design |
Principal Investigator |
河上 眞理 京都造形芸術大学, 芸術学部, 准教授 (20411316)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ヴィンチェンツォ・ラグーザ / 19世紀 / イタリア王国 / パレルモ / 工芸 / 彫塑 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は近代の日伊関係を通して「美術」の概念とその社会性を再考する研究の一環として実施するものである。具体的には、工部美術学校教師として明治初期に6年間日本に滞在した彫刻家ヴィンチェンツォ・ラグーザが故郷パレルモに残した史料を総合的に分析し、19世紀から20世紀初頭におけるイタリア美術と工芸をめぐる状況を生きた史料から描出することを目的とする。 国内において、ラグーザが滞在していた時代の日本美術・工芸に関する作品を数多く閲覧し知見を得るとともに、19世紀から20世紀初頭までに行われた工芸の展覧会に関する資料収集をおこなった。 またイタリアにおける調査では、各地美術館においてラグーザの同時代美術・工芸作品を多数閲覧した。ローマのルイジ・ピゴリーニ美術館ではアジア部門責任者に面会して情報交換し、ラグーザ旧蔵の日本美術品を閲覧させていただくことができた。 パレルモでは多方面からの調査をおこなった。ラグーザの手稿が所蔵されている市立図書館の建物が修復中であったため、館内において調査はできなかったが、担当者に連絡を取り研究協力を依頼することができた。次年度以降、本格的な調査を予定している。一方、パレルモ近代美術館及び、パラッツォ・デッレ・アクイレにおいてラグーザの彫塑作品を閲覧し、イギリス公園内のラグーザ作《ガリバルディ像》については詳細な調査をおこなった。またシチリア州議会図書館において、近年見出されたラグーザ旧蔵アルバムを調査させていただいた。公刊されていないアルバムから多くの情報を得ることができた。これについては、しかるべき学会において報告をおこなう予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は19世紀から20世紀初頭におけるイタリア美術と工芸をめぐる状況を、ラグーザの手稿と作品、同時代作品やさまざまな歴史資料によって解き明かそうとするものであり、これまでのところ閲覧可能な作品や史料の閲覧し、それらの分析も進めており、順調に研究は進んでいる。 本研究の核を成すのは、パレルモ市立図書館に所蔵されているラグーザの未公刊の手稿であるが、同建物が修復中であったため、図書館内において調査することはできなかった。しかし、現地において図書館担当者に研究協力を要請したところ快諾を得ることができた。既に入手している手稿の一部を成す史料の解読を進め、平成28度以降には本格的な調査を円滑に進めるべく準備を整えている。 一方、近年見つかったラグーザ旧蔵のアルバムがシチリア州議会図書館に所蔵されており、写真撮影を含む詳細な調査させていただけたのは大きな成果だったと言えるだろう。このアルバムについては、既にイタリア人研究者(M. A. Spadoro, “O’tama e Vincenzo Ragusa. Echi di Giappone in Italia”, Kalos, 2008、他)らによって、また平成22年に東京藝術大学大学美術館で開催された展覧会図録『明治の彫塑 ラグーザと荻原碌山』」においても紹介されているが、一部に留まっておりその全貌は明らかにはなっていなかった。ラグーザは明治9年の工部美術学校設立時に来日し6年間東京で暮らしたが、アルバムにはその間に撮影された写真が多数を占めていることがわかった。さまざまな情報を含む本アルバムについては、しかるべき学会で報告すべく現在論文に纏めているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度も引き続き、国内においてラグーザが滞在していた時代の日本の美術・工芸に関する作品を数多く閲覧し知見を得るとともに、19世紀末までに行われた美術・工芸の展覧会に関する資料収集をおこなう。ラグーザの日本滞在は、彼の美術・工芸観の形成に影響を与えていると考えられるからである。 今年度もイタリアでの現地調査をおこなう。パレルモ市立図書館の修復状況にもよるが、可能な限り現地において手稿の調査をおこないたい。しかし今年度も入館が不可能な場合には手稿の複写を依頼し、複写資料によって手稿の翻刻を進めることとする。複写依頼が可能なことについては確認済みである。 また、ラグーザ研究に必須の文献資料を多数所蔵しているシチリア州立図書館などにおいて、文献資料を閲覧し、必要なものについては複写を依頼し、それによって分析を進めていく。さらにイタリアの国立図書館において、近代イタリアにおける美術・工芸に関する展覧会に関する文献、及びイタリア王国の美術・工芸についての政策に関する文献を博捜し、近代イタリアにおける美術・工芸を巡る状況の総合的把握に努めたい。またイタリアの美術館においてもラグーザと同時代の美術家の作品を閲覧し知見を深めるよう努めたい。 引き続きイタリア人現地研究者らと連絡を取り合い、日本においてシンポジウムを開催できるように協議を重ねていきたい。 平成28年度中にしかるべき学会において、シチリア州議会図書館所蔵のラグーザ旧蔵のアルバムに関する報告をおこなうとともに、研究機関誌に論文発表をしたい。
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Causes of Carryover |
ラグーザの手稿が所蔵されているパレルモ市立図書館の建物が修復中であったため、館内において手稿の調査及び複写を依頼することができなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
パレルモ市立図書館所蔵のラグーザの手稿を複写するための費用として使用する予定である。
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