2015 Fiscal Year Research-status Report
日本絵画における鉛白・胡粉の利用とその変遷に関する調査研究
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15K02158
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Research Institution | Independent Administrative Institution National Institutes for Cultural Heritage Tokyo National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
早川 泰弘 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター, 分析科学研究室長 (20290869)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
城野 誠冶 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 企画情報部, 専門職員 (70470028)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 彩色材料 / 白色絵具 / 鉛白 / 胡粉 / 蛍光X線分析 / 日本画 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本絵画の彩色材料の中で、白色材料としては鉛白・胡粉・白土の3種の顔料が古くから用いられてきた。この中で、鉛白と胡粉はその用途や主たる利用時期が大きく異なっていることが明らかになりつつある。本研究では、各時代を代表する日本絵画を非破壊・非接触の科学的手法によって調査し、用いられている白色顔料の種類と用途を明確にするとともに、時代ごとの鉛白・胡粉の利用目的や適用範囲を整理し、日本絵画における鉛白・胡粉の利用状況の実態を明確にすることが目的である。 平成27年度は本研究課題の初年度として、できる限り多くの日本絵画を調査して、各時代における鉛白・胡粉の利用を明らかにすることに努めた。鎌倉期絵画を代表する春日権現験記絵巻(宮内庁三の丸尚蔵館所蔵)第十七巻、第十八巻の表面と、第七巻、第十四巻の裏面に関する彩色材料調査を実施した。これまでに調査した他巻と同様、表面に図像を描くための白色材料としては鉛白が、裏彩色としては白土が使われていることが確認された。また、室町期に描かれた花鳥画の代表作として知られる四季花鳥図屏風(サントリー美術館所蔵、重要文化財)について彩色材料調査を実施した。使われている白色材料は鉛白だけであり、室町期の彩色材料について重要なデータを収集することができた。さらに、桃山期から江戸初期に描かれたと考えられるキリスト教関連絵画(長崎県所在)についても彩色材料調査を実施した。使われている白色材料は鉛白だけであった。琉球間切絵図(沖縄県立博物館、重要文化財)あるいは琉球王朝時代の絵画調査も実施し、いずれも白色材料としては鉛白が使われていることが確認された。これまでの調査において、キリスト教関連絵画や琉球絵図には鉛白が用いられており、それらのデータを補強する結果を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本絵画の彩色材料を科学的に調査していく中で、鉛白と胡粉は主たる利用時期が大きく異なっていることが明らかになりつつある。古墳時代から室町期頃までは鉛白が中心であるが、江戸時代の絵画にはもっぱら胡粉が使われていることが分かってきた。本研究課題では各時代の絵画をさらに調査し、鉛白と胡粉の利用状況をより明確にするとともに、白色材料の過渡期にあたる室町期から江戸初期の絵画について、鉛白と胡粉の利用形態を詳細に調査することを目指している。 本研究課題の初年度として、できる限り多くの絵画の調査を実施することに努め、研究はおおむね計画通りに進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
日本絵画における鉛白と胡粉の利用と変遷に関する大きな流れは明らかになりつつあるが、例外的な利用がないのかどうかを調査していきたい。鉛白も胡粉も日本ではいつの時代にも存在してきた白色顔料であり、室町期以前に胡粉はどのような用途に使われていたのか、あるいは江戸期に鉛白が使われている作品はないのか、という点に着目して絵画の彩色材料調査を進めていきたい。 さらに、長崎や琉球といった地域では、江戸期になっても絵画の白色顔料として鉛白が使われていることがわかってきた。鉛白から胡粉への転換について、これまで考えてきた時間軸だけでなく、地域的な特徴も加味した考察を行えるような作品調査を行っていきたい。
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Causes of Carryover |
今年度末に購入予定だったデータ保存用HDDを、次年度初めに購入するよう計画変更した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度初めにHDDを購入予定。
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