2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K02206
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Research Institution | Osaka University of Arts |
Principal Investigator |
犬伏 雅一 大阪芸術大学, 芸術学部, 教授 (70340594)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 肖像写真 / リアリズム / 芸術写真 / 朝鮮総督府 / 韓国写真史 / 写真行為 / 新聞写真 / 営業写真館 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、韓国における光復節以降の写真行為の全体像を解明しようとするものである。研究初年度については、光復節にいたるまでの写真行為の在り方、その表象システムを駆動するものの内実をとらえることにエネルギーを傾注した。 戦前までの半島における写真行為の展開の本質を見極めるにあたって、日本による植民地化に先行して展開された写真行為と植民地化されて以降の写真行為の相関的な研究が不可欠である。この両者は連続性と切断性をはらんでいるため、時間的切断線を引くことは容易ではない。とはいえ、明治維新前の半島では、「写真」という言葉は日本と同じく絵画との関係において存在したが、19世紀初頭から始まったキリスト教弾圧と欧米の学問の受容否定のために、日本と異なりフォトグラフィーの受容展開へとは繋がらなかった。したがって、本研究では、朝鮮半島における洋学受容の問題圏は主たる研究対象からはずして、崔仁辰の『韓国写真史』に認められる既存の知見とこの分野における新知見のうち、フォトグラフィーそのものの受容展開に関わるものに研究を限定した。 このような判断から、本研究の目的に照らして、戦前の写真行為については、日本の影響力が増大してくる日清戦争を一つの区切りとして、それ以降の写真行為の展開の考察に注力した。この時期の研究については、平成27年3月に翻訳を出版した崔仁辰『韓国写真史』(青弓社)の先行研究が基本である。ただ、同書出版直後の柳智鉉の論文「1930年代韓国‘芸術写真’研究」(弘益大学修士学位論文)で作品分析の必要性、当代の絵画動向との関連性の研究の必要性が指摘されており、本研究ではこのような指摘を踏まえつつ、日本を経由して展開された写真受容と展開の在り方を、芸術諸ジャンルの受容にまで拡大し、文化受容の植民地下での在り方から総合的に明らかにしようと試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
戦前の写真行為は、芸術、報道という二つのチャンネルを通じて光復節以降の韓国の写真行為へと連続するので、この二つのチャンネルの研究が初年度における研究進捗を測るバロメーターとなる。 報道写真については崔仁辰の『韓国写真史』ならびに『新聞写真史』が新聞メディアの誕生から、そこでの写真の機能の変動を経時的にとらえた実証性の高い研究基盤を提供している。そこから、日本の植民地当局とのやり取り、朝鮮総督府の施政におけるメディアコントロール、そのコントロールを掻い潜っての「報道写真」(崔仁辰は「媒体写真」という名称を用いる)の自立化の趨勢と総力戦体制下でのその挫折の実態が明瞭に見えてきた。 芸術が関わる写真行為の考察においても、崔仁辰『韓国写真史』が基礎文献であり、当該書の言及する文献の徹底した入手と読解によって韓国における芸術写真の受容と展開のメカニズムのアウトラインが明瞭となった。平成27年度については翻訳のなかで浮かび上がった問題を、入手した文献に加えて、文化芸術に関わる先行する日本の植民地研究を手掛かりに考察を深化させた。 たとえば、洋楽受容における日本の唱歌運動と半島の唱歌運動の複雑な絡み合いに注目した。国民国家の統合装置としての日本の唱歌が、韓国においては帝国日本による半島包摂のツールとして活用されるが、これに対する抵抗として帝国への包摂の拒否と包摂からの離脱のエネルギーが、結局日本における唱歌と相同的に国民国家への欲望の強化につながり、さらに、歌謡の形に転身してその欲望の異形体、ヴァリアントとして持続する。歌う主体、さらにはハングルと日本語を往還する文学における捻じれた主体、絵画を受容し展覧会を組織する絵画行為の主体の考察を通して、表現へと展開する芸術写真を担う主体の考察をより大きなコンテクストの下で深化させることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
光復節以前の朝鮮半島における写真行為についての考察を深化するために、芸術と報道の両面において一次資料の探索を継続する。加えて、文化全般にわたる植民地期にかかわる先行研究の成果を活用するために日韓両語の文献研究をさらに推し進める。映画研究分野の研究成果も充実しつつあるのでこの方面の目配りも必要である。ソウル市内の博物館施設などへの研究旅行も必要に応じて実施する。 光復節以後については、植民地下での主体形成を経た芸術分野の各ジャンルのプレイヤーの活動を丁寧に追跡することが必要である。朝鮮戦争期までに、植民地化で形成された主体が解放下の錯綜したポリティカルな状況の中でどのように変成され自立を志向するのかを、作品・言説・活動を通して具体的に捉えていきたい。朝鮮戦争期以後半島の写真史は否応なく韓国写真史に限定せざるを得ない。この写真史は、日本に代わって登場した父権的存在としてのアメリカとの関係のなかで、伏在し揺曳する日本とも繋がりつつ展開される。従って、韓国が欧米の写真行為にどのような姿勢を取るのか、また一方で日本の戦後写真動向と韓国の写真界がどのように切り結ぶのかを研究考察する必要がある。日本におけるリアリズムの高唱と共鳴するようにリアリズム、ドキュメンタリーが前景化する事態を、日本を補助線としつつも韓国独自の事態として考察する必要がある。これと並行して日本において岩波写真文庫が日本的なるもののアイデンティティの再構築に関わったように、韓国における国民国家的なアイデンティティの構築に写真がどのように関わったのかを、他の映像メディアに目配りしつつ考察していくことになる。平成28年度については、研究の対象時期を1950年代と朴正熙政権の1960年代に限定して現代写真考察への足掛りを確保する。
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Research Products
(1 results)
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[Presentation] 日韓写真史の交差2015
Author(s)
犬伏 雅一
Organizer
日本写真芸術学会 第3回関西写真研究会
Place of Presentation
ビジュアルアーツ専門学校大阪(大阪市北区)
Year and Date
2015-10-10