2018 Fiscal Year Research-status Report
大庭賢兼の文事を視点とした毛利氏・吉川氏の文化活動再評価のための基礎的研究
Project/Area Number |
15K02223
|
Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
西本 寮子 県立広島大学, 人間文化学部, 教授 (70198521)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 大庭賢兼 / 宗分 / 毛利元就 / 伊勢物語注釈 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究においては、毛利元就の家臣の一人である大庭賢兼の文芸的事績の具体相を明らかにすることを主たる目的としている。これまでかなり遅れていたが、4年目にあたる平成30年度においても遅れを取り戻すことは容易ではなかった。しかしながら、以下の点において、研究を進め、一定の方向性は認め得たと考えている。 ひとつは、大庭賢兼の永禄年間後半の事績とされる『伊勢物語』の注釈『伊勢物語口伝抄』についての調査を進めたことである。現在、前半についての記載を調べているが、聖護院道増からの聞書部分には他の注釈書とは異なる性格が認められることが明らかになりつつある。道増が、大庭賢兼が大内氏から毛利元就へと主家を変えるなかで、どのような教養を身につけ、どのような役割を果たすことを期待されていたかということを理解した上で伝授を行ったことをうかがい知ることができる貴重な情報が得られている。これについては今後も引き続き調査を続け、成果をとりまとめて、可能な限り早い時期に公表したいと考えている。もう一つは、飛鳥井雅教から受けた歌道伝授の総決算として詠進したとされる『百首歌』の読みときである。現時点で、全文翻刻されていない資料であるが、解読とその特徴の一端を明らかにすることを試みた。道増から『伊勢物語』講釈を受けた時期と『百首歌』を詠進した時期が近接していることから、両資料の調査と解読を進めることにより、毛利元就に取り立てられた後、文芸的素質を以て側近としての事績を積み上げるまでの間に蓄積された知識と教養のありようの解明につながると考えている。なお、併せて、『宗文家集』の再解読にも着手した。 研究の最終年度である今年度は少しでも遅れを取り戻すべく急ピッチで研究を進めてゆくこととしている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
勤務校における本務及び予期せぬ災害対応等により、研究の遅れを十分に回復できていない状況が続いている。ただし、30年度については、『伊勢物語口伝抄』の調査及び『百首歌』の翻刻及び特徴の解明を進めるとともに、『宗分家集』の再解読に着手できた。これについては、着実に成果を上げられると考えている。 具体的に得られた成果は以下の通りである。 (1)『伊勢物語口伝抄』に認められる聖護院道増の講釈の特徴については、賢兼に『源氏物語』の素養があるという理解のもとで具体的な読解が進められた形跡が窺われること。(2)『百首歌』については、『古今集』や『伊勢物語』についての知識に基づいて詠まれている歌が認められること。また、百首の題の選定については、飛鳥井家からの歌道伝授ではあるものの、同時代に他の戦国武将等への伝授に際して利用された百首題との共通点よりも、同時代に知られていた複数の家集の題との共通点が認められ、特徴と見なしうること。 このような特徴を、これまでに知られている大庭賢兼の事績の諸事象と比較検討することにより、新たな知見が得られる可能性があると考えている。遅れを十分に取り戻すことはいまだできていないが、着実に成果を積み上げていきたいと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの4年間に蓄積してきた研究については、最終年度である平成31年度(令和元年度)に遅れを少しでも取り戻して調査・研究をすすめ、研究期間終了後の早いうちに論文等の形で公表したいと考えている。なお、当初計画のうち、『太平記』の研究については、研究期間終了後も調査を進めていきたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
本務の状況及び予期せぬ災害対応等を優先せざるをえず、研究が計画通りに進まなかったことにより、現状ですすめられることを優先したことによる。今後は研究の遅れを取り戻すとともに、可能な限り計画に沿った支出を行う。
|