2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K02224
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
神田 龍身 学習院大学, 文学部, 教授 (20177760)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 泰恵 岐阜女子大学, その他の研究科, 教授 (80424828)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 『狭衣物語』 / 本文研究 / 三条西家 / 蓮空(甘露寺親長) |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、実施計画通りに本研究を進めるに当たって必要な資料調査を中心に行った。具体的な成果として、三条西家本『狭衣物語』及び、学習院本『さころも』(下記、四高本を昭和初期に臨模したもの)の書誌調査と翻刻が完了、天理大学図書館所蔵蓮空本『狭衣物語』の現物調査及び翻刻が完了、金沢大学図書館蔵四高本『狭衣物語』(上記、蓮空本を江戸期に書写したもの)の翻刻が完了した。 その結果まず、三条西家本の正確な翻刻及びそれをもとにした校訂本文を作成した。これにより、三条西家本の持つ特徴を正確を把握することにつながり、内容読解へと進むことができるようになった。次に、蓮空本『狭衣物語』(巻一・二のみ)、四高本『狭衣物語』(全四巻)、学習院本『さころも』(全四巻)を使用し、異同調査を開始することができた。調査は完了していないが、学習院本『さころも』は四高本『狭衣物語』を書写する際に、四高本『狭衣物語』において補入記号によって示された本文を通行の本文の中に組み入れるなどの作業を行っている。さらに朱の書き入れがあるが、これは四高本を用いての書写の際に起きた間違いを修正するために書き入れられたものと考えられる。蓮空本・四高本・学習院本は同系統の本文ではあるものの、それぞれの書写姿勢は異なっており、蓮空本・学習院本をもって作成された古典文庫96『狭衣物語 蓮空本巻一・二』、同97『狭衣物語 蓮空本巻三』、同100『狭衣物語 蓮空本巻四』を修正する必要があるとの結果を得た。 また、三条西家本と蓮空本はともに室町末期から戦国時代に書写された本であり、この時代における公家の古典作品書写活動の一端を示すものでもある。独自の本文をもつ三条西家本の特徴と蓮空本の書写の特徴を比較検討し、『狭衣物語』の享受の様相の一端を明らかにすることも今後の計画の一つとしたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、諸本を比較検討するための準備として、三条西家本『狭衣物語』、学習院本『さころも』、天理大学図書館所蔵蓮空本『狭衣物語』、金沢大学図書館所蔵四高本『狭衣物語』の翻刻を完了した。翻刻結果のデータ化も終了している。 三条西家本『狭衣物語』については、『校本 狭衣物語』(中田剛直著、おうふう、1976年)を用いて、他本との異同確認が終了し、特徴的な本文についての検討に入った。加えて、校訂本文が作成されたことにより、内容面の読解が進展した。これまで指摘されていなかった漢詩引用と思われる箇所の発見や、特徴的な本文によって、この本が何を描写したかったのかについて考察を進めているところである。 一方、学習院本『さころも』、天理大学図書館所蔵蓮空本『狭衣物語』、金沢大学図書館所蔵四高本『狭衣物語』については、三本の異同調査を可能とするための準備がほぼ整い、一部、異同調査を開始している状況である。蓮空本の特徴に関しては、まだはっきりとした考察が行われていないが、そのための準備は整えた状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の成果をふまえ、平成28年度は、三条西家本の本文的特徴及び物語内容的特徴を明らかにする。本文的特徴を明らかにすることで、他の『狭衣物語』諸本とは異なる独自性の解明へと発展させたい。一方、物語内容的特徴からは、書写された年代と関わり、室町時代末期から戦国時代にかけての『狭衣物語』享受について考察を進める。この点に関しては並行して蓮空本『狭衣物語』の特徴について考察をふかめる予定である。特に蓮空本は曇華院という尼門跡寺院へ贈られたという蓮空の日記記述がある。曇華院はすでに室町期における三条西家系統の古典学を受容する場であったことが指摘されており、『狭衣物語』における三条西家の古典学を考える上で重要である。三条西家本及び蓮空本の特徴を考察することにより、室町時代から戦国時代における写本活動を見通し、そこから新たな本文研究への見通しを立てる一助としたい。 次に、学習院本『さころも』と蓮空本『狭衣物語』、四高本『狭衣物語』の異同調査を行い、学習院本『さころも』がどのように修正を施しながら四高本を書写したのかを明確にし、四高本と蓮空本においてはどのような書写態度であったのかを確認していきたい。 最後に、学習院大学にもう一本所蔵されている『狭衣物語』(伝中院通躬筆本)の調査を行う。今年度中にこの写本の翻刻と書誌調査に取りかかり、異同調査へと発展させる予定である。
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Causes of Carryover |
発生した次年度使用額の多くが研究分担者(鈴木泰恵氏)への分担分である。これは次年度以降にも継続して使用する予定で請求したものであった。分担者の主な担当である伝中院通躬筆本『狭衣物語』の翻刻・本文整理は次年度以降に本格的に開始する予定であり、当初の研究計画に大きな変更はない。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前述した計画通り、三条西家本・蓮空本の考察と並行して、学習院大学に近年所蔵された『狭衣物語』(伝中院通躬筆本)の調査を本格的に進めていく。これはいままで調査・報告されてこなかった写本である。翻刻調査および書誌調査を進めることで、三条西家本・蓮空本と同様に、本文研究の新たな見通しを立てる可能性を探っていきたい。
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