2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K02228
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Research Institution | Nishogakusha University |
Principal Investigator |
多田 一臣 二松學舍大學, 文学部, 教授 (50092268)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 『万葉集』 / 万葉語彙 / 表現論 / 柿本人麻呂 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、研究代表者による『万葉集』の注釈『万葉集全解』全七巻(筑摩書房刊)のテキストデータ化(電子データ化)の整備を進め、これをほぼ完成した。商業用著作物であるため、一般への配布はできないが、有志によって組織した研究会のメンバーにはこれを配布し、万葉語彙の有効な検索に資することができたと考えている。有志による研究会は、研究代表者の入院という不測の事態もあり、4回程度に止まったが、共同討議を通じた有益な成果を得ることができたと考えている。メンバーの一人である松本陸氏が万葉語彙に触れつつ、『拾遺集』四季部についての研究発表を和歌文学会大会で行ったのは、この研究会の成果といえる。また次年度の刊行になったが、雑誌『悠久』145号(おうふう刊)において、「古代語の世界」と題する企画を古橋信孝氏と共同で行い、研究会のメンバー数人がそこに寄稿して、研究成果の一端をを示すことができた。 柿本人麻呂の和歌の表現研究は、雑誌『礫』への54回に及ぶ連載を完結し、その成果を基礎とした著書『柿本人麻呂』の原稿を完成させた。その成果は28年度後半ないし29年度早々に吉川弘文館から人物叢書として刊行される予定である。人麻呂独自の表現のありようを、伝記研究を軸としながら進めており、『万葉集』の語彙研究の一つの成果として自負するところがある。 なお、万葉語彙の研究成果を、5回にわたり、「万葉語の由来を探る」と題して、NHKラジオの「私の日本語辞書」において放送したが、一般向けの番組ではあるものの、万葉語彙研究の最新の成果を示すことができたと考えている。 このほか、本研究課題に直接関係する論文3編、小論2編を発表することができた。 本年度は、万葉語彙を外側から検証する意味で、記紀歌謡の語彙研究を進めるはずであったが、前記の入院等があり、この方面の成果は遺憾ながら、十分に達成することができなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度においては、研究計画にほぼ4本の柱を立てた。すなわち、①『万葉集』の注釈である『万葉集全解』のテキストデータ(電子データ)の整備をはかること、②有志による研究会を組織し、『万葉集』の重要な語彙について、語誌的研究を進めること、③万葉語彙の研究成果を前提としながら、柿本人麻呂の作品の表現論的研究を進めること、④万葉語彙の独自な位相を確かめるため、記紀歌謡の語彙との比較を進めることの4本である。「研究実績の概要」に記したように、①の整備はほぼ完了し、②は研究会の回数こそ少なかったものの、その成果はメンバーの研究発表、および雑誌『悠久』掲載の諸論によって十分示されたものと考えている。③についても、著書『柿本人麻呂』の原稿を脱稿したことで、大きな新展が図られたものと信じている。④については、研究代表者の入院等のことがあって、十分な進捗を見ることができなかったが、研究全体として見るならば「おおむね順調に推移している」と判断してよいのではないかと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度以降の方策だが、平成27年度の研究計画において立てた4本の柱を、原則として継承していきたいと考えている。有志による研究会を組織し、そこでの共同討議を通じて、万葉語彙の語誌的な解明を目指すことが第一の柱となる。語彙を中心とする柿本人麻呂の表現論的研究はひとまず一段落したが、その研究を進めるためには、その作品を支える風土のありようにも射程を及ぼす必要があると考える。そのための実地調査も進めてみたい。なお、人麻呂の表現論的研究を相対化する意味で、同じ宮廷歌人である山部赤人、高橋虫麻呂の作品の表現論的研究も進めるつもりである。その成果を刊行する目途が立ちつつあるので、そこにも力を注いでいきたい。また、記紀歌謡の語彙研究は、昨年度は大幅に遅れたので、この方面にも力を注ぎたい。記紀歌謡の語彙には、なお意義不明のものが多く含まれており、その解明を図っていきたいと考えている。そのためには記紀全体、とりわけ『古事記』全体の注釈的研究が必要であり、本年度はこれについても強力に進めていきたい。随時、学会等での研究成果の報告も行うつもりである。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたが、ごくわずかな端数ともいうべき額であり、この金額では具体的な支出を計ることができないため、次年度に繰り越すことが最善であると判断したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ごくわずかな端数といええる金額ゆえ、次年度の当初の計画にそのまま繰り越したいと考えている。それゆえ、この使用によって、当初の計画の変更の必要はまったくないと考えている。
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Research Products
(6 results)