2015 Fiscal Year Research-status Report
霊的世界と医学の交錯点―古代から近世における心身観をめぐって―
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15K02229
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
辻本 裕成 南山大学, 人文学部, 教授 (90249920)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 医学史 / 霊物 / 霊薬 / まじない / 呪詛 |
Outline of Annual Research Achievements |
前近代においては、人間の生霊や死霊、狐などの動物、呪符などによる呪いが人間の身の不調の原因とされることが少なくなかった。本年度は、そのような病症に対する医学及び医学者のあり方について、基礎的な資料を収集、整理、分析し、研究の基礎的なデータを整備する作業を行った。 具体的には、月例の研究会を、研究代表者、精神医学者の長谷川雅雄南山大学名誉教授、人類学者のペトロ・クネヒト南山大学元教授と共に行った。さまざまな問題・資料を取り扱ったが、特に集中して議論したのは、以下の2つである。ひとつは、「蠱」と呼ばれる虫を使って行われるまじないによって起こる病症である。そのまじないの方法や、対処の方法などについての言説を、学際的な観点から分析・検討を行った。もうひとつは、近代的な視点からは、純粋な医薬というより、呪薬という側面が強いと捉えられる「竜骨」についてである。その素材や薬効がどのようなものと考えられてきたか、その議論の歴史を日中の医書を中心に検討し、霊的な力が見出しやすい薬が、どのような病にどのような思考を背景に用いられたのかを考えた。 如上の作業と並行して、本年度は鎌倉時代の医学書である『医談抄』の研究を行い、『医談抄』が、成立当時の医学的な環境をどのように捉え、どのような提言を行っているのかを考えた。『医談抄』は衰退史観で医にかかわる環境を捉えており、時代が悪くなった今ではもはや、よき時代であった上古と同様の医術を行うことはできないことを説いている。このことが、前時代よりは病への霊的な見方が後退したように見える鎌倉時代に於いて、このような時代観があったことは、本研究のテーマである霊物が原因とされた病への向かい方と深く関わるという見通しを持つことができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」欄に示したように、資料の収集・分析は進んでいるが、中国医学書の読解には予想以上に時間がかかり、論文としてまとめるに至らなかった。 資料の集積・分析については順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
夏期休暇など、研究に集中できる期間を利用して論文の執筆に当たる予定である。資料の集積・分析については進んでいるが、民俗例の調査などを精力的に進めていきたい。また鎌倉時代の医書『医談抄』と『医家千字文註』の注釈的研究と分析を進めて、日本中世に於ける身体観・医学観の研究を進めて、当研究課題への一助としたい。定例の研究会については、今後もできるだけ頻度を多く開催する。
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Causes of Carryover |
購入予定であった書籍の一部が、中国からの取り寄せが必要であったり、品切れであったりして年度内に購入できなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
取り寄せが必要な書物については今年度早々に発注し、品切れの書物については古書店などでの購入を試みる。
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Research Products
(1 results)