2015 Fiscal Year Research-status Report
二条家周辺による歌書収集書写活動の検証と分析―擬定家本私家集を中心に
Project/Area Number |
15K02231
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
小林 一彦 京都産業大学, 文化学部, 教授 (30269568)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 中世私家集 / 二条家 / 冷泉家 / 擬定家本 / 歌道宗匠家と歌書 / 資経本 / 承空本(西山本) / 冷泉家時雨亭文庫 |
Outline of Annual Research Achievements |
4月、当該研究計画のスタートにあたり、手はじめに和歌文学会第117回関西例会(大手前大学2015/4/18)にて、これまでの準備段階の研究に加えて、4月以降の調査・分析により得た新知見を加えて「普通名詞としての「擬定家本」と中世歌壇史―再び二つの袖中抄のことなど―」を口頭にて研究発表した。 8月、大規模学術フロンティア促進事業「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」第1回日本語の歴史的典籍国際研究集会プログラム「可能性としての日本古典籍」"The Possibilities for Pre-modern Japanese Texts"(2015/7/31・8/1国文学研究資料館大会議室)のパネル2「総合書物学への挑戦」"New Approaches to Japanese Philology"にディスカッサントとして出席。鎌倉時代の私家集の書写態度について当該研究の研究調査をもとに話題提供を行い、また討論に参加した。 9月、中日新聞・東京新聞・北陸中日新聞に、八代集をめぐって・上「古今和歌集と四季 日本人の季節感形成」、同・下「恋を詠む歌人たち 交際手段には不可欠」を概論として2週にわたり掲載した。なお、その後、毎週1回ずつ、王朝の歌人たちにスポットをあてた連載を、国民へのわかりやすい研究成果の還元を企図して開始した。平安時代の歌人の私家集は、ほとんどが冷泉家時雨亭文庫蔵本に始原を発し、鎌倉中世に書写された古写本や、真観本・資経本・承空本などの写本群をもとにしている。第1回の清少納言「きらめく才気、涙の夜も」では、資経本(とその転写本系統)に残る冒頭部を取り上げて彼女の知られざる一面を論じた。以後、引き続いて3紙への掲載を継続中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度の前半は、むしろ当初の計画以上に研究は進展していた。 4月には準備段階の研究成果を踏まえ、和歌文学会関西例会において口頭発表を行った。また、6月に公開シンポジウム「日本の美 こころとかたち ―琳派400年記念―」においては、私家集の料紙、特に破り継ぎや下絵の上に絶妙なバランスで配置された絵と文字が、琳派の宗達・光悦の絵と文字に影響を与えていることを、書誌学的な形態の見地から指摘した。さらに7月末から8月初にかけて、日本語の歴史的典籍国際研究集会プログラムのパネルディスカッションにおいてディスカッサントをつとめるなど、研究成果の同時並行的な発信にも、意欲的に取り組めていたと自負している。 しかしながら、7月半ばより健康状態が、にわかに変調をきたし、8月初旬に大学内診療所の診察を受信、ただちに医師の紹介状により京大病院へ転院し、精密検査を受診するに至り、その後は投薬治療により通院加療の生活に入った。 如上の事由により、夏休みに計画していた全国各地への伝本調査は、体調の不良から、当初の計画通りには実施できないままに終わってしまい、秋学期を迎えるに至った。また、その後も健康状態は好転せず、調査出張そのものも見直し、また関連する学会や研究会、学術講演会などへの出席も取りやめざるを得ず、もっぱら健康の回復に努めながら、勤務地およびその周辺を活動範囲として、文献資料を読み直すことにより、研究を遂行する以外にない状態であった。したがって、当初の計画よりも遅延を来す事態となっている。 なお、現在は、幸いにして健康状態は改善へと向かっており、研究計画を遂行するに差し支えが無い程度にまで回復している。
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Strategy for Future Research Activity |
27年度に比し、幸いに、健康状態は大きく好転したので、前年度は実施できなかった全国諸処への訪書調査へ精力的に赴くつもりでいる。ただし、現在もなお継続して通院加療中であることから、無理をせず、研究到達点を見据えた、3か年での研究計画達成をめざしたい。27年度はかなりの額の研究経費をやむなくを繰り越し28年度は無理なく研究を進め、研究経費も徐々に当初の計画に追いつくように、適正な支出につとめ、着実に研究を遂行したい。 具体的には、和歌文学会117回関西例会(12月3日・京都女子大学<冷泉家特集・シンポジウム>)において成果を公開発表することを目標に、当該研究計画の中間報告と位置づけ、鎌倉から南北朝にかけての時代に、歌道宗匠家とその周辺において書写・転写・収集・集積された私家集のテキストの実態について、解明を進めたい。 そのために、冷泉家時雨亭文庫蔵本の所蔵資料はもとより、宮内庁書陵部、国立公文書館内閣文庫、千葉県佐倉市の国立歴史民俗博物館の所蔵資料をはじめ、各地の美術館・博物館所蔵資料の閲覧調査、また電子資料やマイクロ・紙焼写真の閲覧調査を進める。 また一方で、オープンサイエンス化にともなう電子化資料の活用についても、昨今のまざましい技術革新により、思いも掛けない方法によって新たな知見が導けるようになっている。自然科学(情報工学)分野の専門家との交流につとめ、専門知識の提供や最先端の機材活用方法などの教示を受け、今後の研究に取り入れていくことも視野に入れつつ、研究計画の遂行に向けたIT技術の活用を考えているところである。
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Causes of Carryover |
書誌学の分野に関わる研究は、古典籍の各伝本の実物を手にとっての、閲覧および書誌学上の特徴を精査するところから研究がスタートする。全国諸処に点在する原本(ないしはそれに準じるマイクロフィルムや紙焼き写真などの画像資料)の調査・閲覧のための訪書が、書誌学分野の当該研究には不可欠であった。 ところが、7月半ばより健康状態がにわかに悪化し、8月初旬に大学内診療所の診察を受信したところ、ただちに医師の紹介状により京大病院へ転院をすすめられ、精密検査を受診、通院加療の必要が生じた。体調不良により、計画していた全国各地への伝本調査は、ほとんど実施できないままに終わってしまい、調査研究のための旅費を中心に経費の支出が計画通りに進まなかったことが大きな事由としてあげられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
27年度にほとんど実施できなかった全国諸処への訪書へ精力的に赴くつもりである。前年度より経費を繰り越さざるを得なかった原因は、旅費の支出が滞ってしまったことが原因であった。当然、繰り越した研究経費については、訪書のための調査出張旅費として使用する方向で準備・計画をすすめている。具体的な訪書先としては宮内庁書陵部、国立公文書館内閣文庫、千葉県佐倉市の国立歴史民俗博物館、また適宜、必要に応じて各地の美術館・博物館なども考えている。 また、私家集類の実情を把捉するため、テキスト類の比較校勘研究に必要な、古典籍・古筆切の資料や、原本影印刊行資料の収集、および私家集を中心とする歌書類の活字本購入などへの経費の支出を計画している。
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Remarks |
大規模学術フロンティア促進事業「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」第1回日本語の歴史的典籍国際研究集会プログラム「可能性としての日本古典籍」(2015/7/31・8/1国文学研究資料館大会議室)パネル2「総合書物学への挑戦」"New Approaches to Japanese Philology"ディスカッサント
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