2016 Fiscal Year Research-status Report
二条家周辺による歌書収集書写活動の検証と分析―擬定家本私家集を中心に
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15K02231
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
小林 一彦 京都産業大学, 文化学部, 教授 (30269568)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 中世私家集 / 資経本私家集 / 擬定家本私家集 / 承空本(西山本)私家集 / 定家仮託書 / 冷泉家時雨亭文庫 / 古典教育 / 和本リテラシー |
Outline of Annual Research Achievements |
11月、京都産業大学日本文化研究所主催の学内公開講演会「「くずし字」がすらすら読める-デジタルアーカイブと人工知能で変わる人文学の世界-」(11/18於京都産業大学図書館ホール)にて、「人文学分野におけるオープンサイエンス化の波」について報告した。12月、和歌文学会関西12月例会(第122回、12/3於京都女子大学)のシンポジウム「擬定家本の再検討」において「プソイド定家の始発─「汝月明らかなり」と鵜鷺系歌学書への道―」と題し報告、およびパネルディスカッションに加わった。1月、「初中等学校における古典教育」研究会(1/16国文学研究資料館)において、「デジタル世代に和本のアナログ文化を伝える」と題し、書誌学の面白さをどのように次世代に伝えていくべきか、実践事例を中心に発表を行った。 3月、『京都産業大学日本文化研究所紀要』第22号に、「賀茂季鷹手沢本「新和歌集」翻刻」を掲載。「新和歌集は」諸本の識語によれば、二条家の祖、二条為氏を撰者とする鎌倉時代中期成立の私撰集である。上賀茂社家伝来の新出伝本を、書誌中心に簡便な解題を付して、全文を紹介した。 広く国民を対象とした研究成果の公開実績として、公益財団法人冷泉家時雨亭文庫の機関誌「しくれてい」に「王朝の女流歌人―御文庫の典籍から」を連載した。時雨亭文庫所蔵の重要文化財、私家集の調査をもとに、女流歌人の私家集を取り上げ、特に鎌倉時代に書写された、資経本・擬定家本・承空本の私家集群を扱いながら、専門研究者から一般読者をも対象として、時雨亭文庫136号(4/20)は擬定家本「藤三位集」、137号(7/20)は承空本「経信母集」、138号(10/20)は擬定家本「郁芳門院安芸集」、139号(1/20)は擬定家本「檜垣媼集」を扱った。また、中日新聞・東京新聞・北陸中日新聞の文化面に「王朝の歌人たち 雅の世界」を一年感にわたり毎週一回、連載した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究がスタートした前年27年度の4月に、これまでの準備段階で蓄積された研究をもとに、「普通名詞としての「擬定家本」と中世歌壇史―再び二つの袖中抄のことなど―」(和歌文学会関西例会、於大手前大学)の口頭発表を行った。はからずも、その発表が契機となり、また冷泉家時雨亭文庫所蔵の典籍類が100冊を目指して刊行が再開されたこともあり、学会で擬定家本を特集とするシンポジウムが開催される運びとなった。研究代表者は、12月に開催されるこのシンポジウムを、当該研究の中間報告とりまとめと位置づけ、それにあわせて、28年度は諸本の調査・分析とともに、関連する論文の収集などを行うようにつとめた。国文学研究資料館や国立公文書館内閣文庫などへ赴き、二条家の面々が編纂・書写・流布に関与した典籍類について、私家集を中心に、さらにそれにとどまらず、勅撰集・私撰集や歌論歌学書についても、原本およびマイクロフィルムや紙焼き写真類の閲覧を通じて調査を重ねた。 東京以外の全国各地にも、散在する伝本の調査のために、所蔵機関の協力のもと、閲覧調査は着実に進行した。書き入れ、擦り消し、料紙の表面を削るなど、消されてしまった書誌情報を歴史の闇からすくい上げることは重要である。鎌倉時代の書写の和歌集や歌論書の優品を所有する愛媛県今治市河野美術館の調査では、赤外線カメラを持ち込んでの撮影も試みた。 擬定家本私家集と定家仮託の歌論書との関係についても、見通しをつけることができた。私家集の集付けについても、私見の一端を擬定家本「郁芳門院安芸集」の精査を通じて、明らかにすることが出来た(「しくれてい」138号)。
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Strategy for Future Research Activity |
文献学的な手法により、諸本の書誌調査を引き続き継続して進めながら、冷泉家時雨亭文庫蔵「資経本私家集」「擬定家本私家集」「承空本(西山本)私家集」の個々の成立や書写・享受について、精巧な影印本である冷泉家時雨亭叢書を活用し、書誌学的見地からさらなる考察を加え、課題研究の完成を期したいと考えている。 具体的には、以下のような諸点を柱に、研究活動を計画している。 (1)中世勅撰集・中世私撰集への各私家集類からの撰入状況を、新編国歌大観・新編私家集大成などを駆使して調査し、その実相を明らかにする。 (2)擬定家本私家集が鎌倉末期に生成されてくる背景について、和歌史上の問題点から分析・解析を加え、出現の必然性について和歌史・歌壇史を俯瞰しながら解明を試みる。 (3)個々の中世私家集のテキスト文字列から、さらに和歌表現にまで分け入り、鎌倉時代の私家集というものを、総体として捉えることを目指す。 最終完成年度でもあり、3年間の調査・考察をもとに、成果報告をまとめる。勤務する京都産業大学の日本文化研究所紀要や、所属する学会の機関誌、その他の論集などにも研究成果を投稿、掲載する予定である。国会で「古典の日に関する法律」が制定されて5周年にあたる年でもあり、古典の日推進委員会の「古典の日フォーラム」などの機会や、また新聞・雑誌などの身近なメディアを通じて、専門研究者にとどまらず、広く国民にも研究成果を発信・公開する。
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Causes of Carryover |
当該研究の初年度、スタートが、本属の大学・学部の新学科「京都文化学科」を開設・発足と重なり、学科主任として教学および事務的な仕事にも時間を割かれることが多く、研究時間の確保が難しかった。特に、何日間かにわたり集中して原本を書誌学的に調査閲覧する訪書出張が困難であったことが影響し、27年度の研究費の執行が、必ずしも計画通りには進まなかった。当該28年度は、学科主任の責務を離れ、また2年目を迎え新学科の運営も順調で、完成年度に向け軌道に乗りつつあり、研究のための時間も十分にできるようになった。着実に研究は進展を見ており、当初研究の単年度あたりの研究費をほぼ使用することが出来たが、結果として27年度の繰越金が、ほぼそのまま残る形となってしまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
現在使用しいているノートパソコンが旧式になり、新しく提供されるデータベースや電子情報など、研究への活用に支障が生じていたところであった。繰越金にて購入することで、当初の研究計画の研究費を圧迫することなく、有効に活用するつもりでいる。
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