2016 Fiscal Year Research-status Report
墓誌の表現分析を基盤とした日中韓三カ国の文化交流の応用的研究
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15K02234
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
廣川 晶輝 甲南大学, 文学部, 教授 (40312326)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 万葉集 / 墓 / 日中韓文化交流 / 墓誌 / 輓章 / 伝説 / 山上憶良 / 大伴家持 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者廣川晶輝は、墓自体が持つ顕示・アピールの機能、偲びの回路を開き得る機制の分析において成果を上げた(平成19~21、22~26年度科学研究費補助金交付。中国出土碑文の表現分析が日中文化交流に寄与する新説も公表した)。そして平成26年5月、韓国外国語大学校開校60周年記念国際学術シンポジウム「万葉集に見る恋と死―あなたを歌うこと―」にて講演した際、韓国国立民俗博物館への臨地調査研究を実施し、葬送儀礼に用い棺を乗せた御輿の前に掲げ死者の生前を称揚する漢文体の「輓章」の中に、「哀哉」という表現で始まる輓章を発見した。この表現は中国出土墓誌に頻出する慣用表現である。つまり、「中国出土墓誌→韓国葬送儀礼の輓章」という影響関係を新たに発見したのである。この発見に基づく本研究は、「日本―中国」のみならず「中国―韓国」「日本―韓国」の影響関係を分析・論述する素地を得た。墓誌の表現分析を基盤として、従来指摘されていない日・中・韓三カ国の古代の文化交流の様相を解明し東アジアの文化交流への理解を豊かなものにする明瞭な研究課題・方法を具備する本研究は、目的完遂のため次の三基軸を備える。 1.中国出土墓誌の第一次資料のデータ化。 2.韓国の葬送儀礼の「輓章」の調査。 3.墓の機能・機制の追究のための、墓・古墳の臨地調査研究。 1.の実施成果として、中国出土墓誌を収める『隋代墓誌銘彙考①』における研究作業がある。2.の実施成果として、「韓国古典総合データベース」における「輓章」の調査研究作業がある。3.の実施成果として、大韓民国公州の武寧王陵の百済様式と近似する「舞谷2号墳」(奈良県桜井市)における臨地調査研究が挙げられる。昨年度に引き続き、韓国と日本の文化交流を実際の古墳の臨地調査研究において見定めた意義は大きい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書の「研究目的」欄に明示したとおり、従来指摘されていない日・中・韓三カ国の古代の文化交流の様相を解明する研究を実施しているから。平成28年度は、平成27年度の以下の実績〔①実際に大韓民国に赴き大韓民国扶余の陵山里古墳群・公州の武寧王陵の臨地調査研究を実施。②日本に帰国後に、武寧王陵の百済様式を採用してレンガ状の切り石を積み上げる築造方法を採る花山塚古墳(奈良県桜井市)の臨地調査研究を実施。〕を継承して、百済様式の「舞谷2号墳」(奈良県桜井市)における臨地調査研究を実施し、韓国と日本の文化交流を、一層見定めることができたから。 さらに、研究に基づく成果を一般の方々に対して報告・解説する努力を惜しまずに実施し、科学研究費交付の成果を国民の方々へと還元する目的を大いに果たしているから。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究が目的完遂のため明瞭な形で備える三基軸に基づいて、今後の研究を推進する。 中国出土墓誌の第一次資料・史料のデータ化においては、文部科学省に申請し交付を得てすでに整備できている中国出土墓誌研究の良好な研究環境を今後も最大限に活用する。 本研究の明瞭な研究課題(「日本―中国」のみならず「中国―韓国」「日本―韓国」の影響関係を分析し論述する)実現の素地として、大韓民国国立民俗博物館の葬送儀礼の「輓章」の文言の表現分析を継続する。なお、大韓民国中央大学校名誉教授朴銓烈氏と同教授具廷鎬氏の惜しみない御協力を得ている。この御協力に基づいて、平成29年度には再び、大韓民国国立民俗博物館を訪問し、27年度に訪問した折に構築できた大韓民国国立民俗博物館との信頼関係を基盤として、葬送儀礼の「輓章」研究を推進する。 墓・古墳の臨地調査研究としては、上記「舞谷2号墳(終末期、方墳)」の近くに位置する、1.こうぜ1号墳東石室(後期、前方後円墳)、2.こうぜ1号墳西石室(後期、前方後円墳)、3.秋殿南古墳(後期、方墳)、4.兜塚古墳(中期、前方後円墳)、5.メスリ山古墳(前期、前方後円墳、竪穴)、6.コロコロ山古墳(後期、方墳、横穴)の臨地調査研究を行う。この臨地調査研究によって、墓の持つ「顕示・アピール」の機能を一層視察することが可能である。
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