2018 Fiscal Year Research-status Report
墓誌の表現分析を基盤とした日中韓三カ国の文化交流の応用的研究
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15K02234
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
廣川 晶輝 甲南大学, 文学部, 教授 (40312326)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 万葉集 / 墓 / 日中韓文化交流 / 墓誌 / 輓章 / 伝説 / 古墳 / 山上憶良 |
Outline of Annual Research Achievements |
従来指摘されていない日・中・韓三カ国の古代の文化交流の様相を解明し東アジアの文化交流への理解を豊かなものにするという明瞭な研究課題を具備する本研究にとって、2018年度も成果の大きい年度であった。大韓民国中央大學校日本研究所主催「2018年度中央大學校日本研究所學術大會 日本文化における宴」(2018年12月1日、於 中央大學校大学院国際会議室)に招聘され、「天平万葉と宴」と題して日本上代の歌集『万葉集』に歌われた七夕歌の研究発表を実施したからである。研究発表では中国由来の七夕伝説の日本における変容を日本の生活文化面から説明した。また、『万葉集』に歌われている牽牛と織女のひたむきな思いが日本の現代アーティストの歌詞にも同様に歌われている様相を指摘し、日本文化における1300年の時を超えての心情表現の継承を説き明かした。日本文化への理解を多面的に深め国際交流に貢献できた意義は大きい。同大会のシンポジウムにおいては韓国では病気や怪我に遭わずに長命の天寿をまっとうした人の葬儀を「好葬」と言うことが披露され、日本においても同様の名称はないかとの質問が投げかけられた。廣川晶輝は長命の天寿をまっとうした祖母(97歳で逝去)の葬儀を例に出し、火葬の際に棺に入れる「銭」を収骨時には目出度い縁起物として参集者が大切に持ち帰る風習を説明した。国際学術大会という場において多様な形での国際文化交流がはかれたことの意義も大きい。大会の翌日には中央大學校日本研究所所長具廷鎬氏の多大なる御好意により江華島に向かい臨地調査研究を実施した。江華歴史博物館において朝鮮王からの「勅」の文書資料を閲覧し文書行政の様相への知見を深め、ユネスコ世界文化遺産に登録されている支石墓の臨地調査研究を実施することで、本研究「研究計画調書」に明記されている「墓の顕示・アピールの機能」の研究を推進できたことの意義も大きい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究が目的とする「墓・古墳自体が持つ顕示・アピールの機能」についての研究成果を上げることができたからである。すなわち、上記の大韓民国中央大學校日本研究所主催「2018年度 中央大學校 日本研究所學術大會 日本文化における宴」(2018年12月1日、於 中央大學校大学院国際会議室)に招聘された際の江華島への臨地調査研究において、ユネスコ世界文化遺産に登録されている支石墓(江華支石墓・富近里チョムコル支石墓・鰲上里支石墓群の三カ所)への臨地調査研究を実施し、支石墓が成す近隣集落への「顕示・アピールの機能」についての研究を順調に進展できた。 さらに、従来指摘されていない形で日・中・韓の東アジアの文化交流の理解を豊かにするという目的を持つ本研究にとっての今後の進展を期待できる大きな端緒を得ることができたからである。2014年5月「韓国外国語大学校開校60周年記念国際学術シンポジウム 万葉集に見る恋と死―あなたを歌うこと―」にて講演した折に韓国国立民俗博物館への臨地調査研究を実施した(2015年11月にも実施した)。その際に葬送儀礼に用い棺を乗せた御輿の前に掲げ死者の生前を称揚する漢文体の「輓章」を分析することで、日・中・韓三カ国の古代の文化交流の様相を解明し東アジアの文化交流への理解を豊かにする研究課題を見出した。2018年度、福井県立若狭歴史博物館(福井県小浜市遠敷)にて資料調査研究を実施した際、福井県小浜地方にて盆の精霊船送りの行事に使用する船に「幡」を立てることを発見した。この「船」と「幡」の形態は、韓国国立民俗博物館で見た葬送儀礼の「御輿」と「輓章」の形態ときわめて近似している。朝鮮半島と北陸地方は海の交易において繋がっている。ここに文化交流の実態を見出せる。これまで堅実に推進して来た本研究の成果が結実する端緒を得た次第であり、今後の研究の新展開を期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度も、大韓民国中央大學校日本研究所主催「2019年度中央大學校日本研究所學術大會 東アジアにおける悲しみの表象」(2019年12月開催予定)に招聘され研究発表をおこなうことが決定している。発表題目は「親と子の別れ―山上憶良の作品を中心に―」であり、上記のキーワード欄に明示している「山上憶良」の研究を展開する予定である。2018年度に日本上代の歌集『万葉集』の作品理解を基盤として、大韓民国における日本文化への理解を多面的に深め国際文化交流に貢献できた成果をさらに進展させ、2019年度もこの国際文化交流に貢献する。 中国出土墓誌の第一次資料・史料の分析においては、文部科学省に申請し交付を得てすでに整備できている中国出土墓誌研究の良好な研究環境を最大限に活用する。本研究の明瞭な研究課題「日本―中国」「中国―韓国」「日本―韓国」の影響関係の分析の素地として、大韓民国国立民俗博物館の葬送儀礼の「輓章」の文言の表現分析を、前年度同様に継続する。なお、大韓民国中央大學校名誉教授朴銓烈氏と同教授具廷鎬氏の惜しみない御協力により大韓民国国立民俗博物館との間で信頼関係を構築できている。その構築できた信頼関係を基盤として研究を推進する。 2018年度、福井県立若狭歴史博物館(福井県小浜市遠敷)にて資料調査研究を実施した際、従来指摘されていない形で日・中・韓の東アジアの文化交流の理解を豊かにするという目的を持つ本研究にとっての今後の進展を期待できる大きな端緒を得ることができた。福井県小浜地方の盆の精霊船送りの「船」と「幡」の形態が、韓国国立民俗博物館に展示されている葬送儀礼の「御輿」と「輓章」の形態ときわめて近似しており、朝鮮半島と北陸地方における海の交易を基盤とした「韓国―日本」の文化交流の実態を見出せた。これまで堅実に推進して来た本研究を結実させるべく、この文化交流の分析を推進する。
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