2016 Fiscal Year Research-status Report
方法としての有島武郎-1920年代の朝鮮文壇における女性・子供・労働者の表象
Project/Area Number |
15K02239
|
Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
丁 貴連 宇都宮大学, 国際学部, 教授 (80312859)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 有島武郎 / アメリカ留学 / 1900年代のアメリカ社会 / ハヴァフォード大学 / クェーカー / 金子喜一 / ホイットマン / キリスト教 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究2年目の2016年度は、有島武郎の思想形成に深い影響を及ぼしたアメリカ留学時代をフィールド・ワークし、「最も西欧的な知性の作家」と言われる有島文学の本質に迫った。 研究にあたっては、コロンビア大学東アジア言語文化学部(資格:客員研究員、期間:2016年6月1日~2017年1月31日、世話教員:Tomi Suzuki教授)を拠点に、1903年9月から1906年8月末までフィラデルフィアのハヴァフォード大学とフランクフォード精神病院、Elwyn精神薄弱児訓練所、ボストンのハーバード大学大学院とボストン美術館、ボルティモアのジョンズホプキンズ大学、ワシントンの議会図書館などで勉学と労働体験、読書生活などを送っていたアメリカ留学時代の有島の足跡をたどりつつ、留学中の1900年代のアメリカ社会と文化に関する資料収集と、コロンビア大学の日本近代文学研究者をはじめとするアメリカにおける有島研究者たちと意見貢献を行なった。 8か月間にわたって行なったアメリカ留学時代に関する文献研究とフィールド・ワーク、資料収集、意見交換を通じて、有島文学の本質に迫ることができた。その本質とは、1.クェーカーの人々と接し、キリスト教について根底から再考したこと。2.ホイットマンの『草の花』を知り、キリスト教に代わる自らの思想を見出したこと。3.社会主義者金子喜一と交わり、社会主義を本格的に学んだこと。4.自由な環境で文学・宗教・思想・歴史・美術などを含む幅広い教養を身に着けたことなどである。これらは有島の文学と思想、芸術の本質を理解する上で最も重要な問題である。その本質の一端はこれから研究発表を通じて順次形にしていく予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は「最も西欧的な知性の作家」と言われる有島武郎が、近代化を渇望する東アジアの知識人たちと問題意識(女性問題・子供問題・労働者問題)を共有していたことを明らかにすることによって、アジアへの欠落が指摘される有島文学が東アジア諸国の近代文学者たちに受容されていた背景を明らかにすることである。 研究初年度の2015年度は、有島の作品が韓国や中国から来日した東アジアの留学生たちに愛読されていた受容の背景の解明に取り組んだ。その結果、有島文学における西欧的性格こそが廉想渉や魯迅、金東仁など東アジアの文学者たちに広くかつ深く受容される契機となったことを浮き彫りにすることができた。 研究2年目の2016年度は、前年度の成果を踏まえつつ「最も西欧的な知性の作家」と言われる有島文学の本質に迫るべくアメリカ留学時代における有島関連資料収集とフィールド・ワーク、コロンビア大学をはじめとするアメリカの有島研究者たちと意見交換を行なった。その結果、有島にとってアメリカは単なる教養や智識を得る場所としてのみならず、有島武郎という存在そのものを形造っていた根源の場であるという事実を確認することができた。 この2年間の文献研究とフィールド・ワーク、意見交換によって、アジアへの関心の欠落が指摘される有島の作品が東アジアの近代文学者の間で受容されていた要因と背景を予定通り浮き彫りにすることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究3年目の2017年度は、2年間にわたって行なった文献研究とフィールド・ワークの成果を、まず有島武郎研究会をはじめ国内外の学会とシンポジウム、研究会などで順次発表し、批判や意見を仰ぐ。次に、研究発表をまとめた研究論文を執筆し、韓国や中国(台湾)、アメリカなどの学会誌や紀要などに投稿する。そして三つ目に、アメリカにおける有島武郎の足跡をたどったフィールド・ワークは旅行記として発表し、研究の成果を広く一般にも公表する。以下は具体的な発表タイトルである。 ①1920年代の韓国社会と女性問題、そして『或る女』の受容 ②1920年代の東アジア社会と『小さき者へ』の受容、そして子供の発見 ③1920年代の韓国社会と『カインの末裔』、そして労働問題 ④もう一つのアメリカ-有島武郎のアメリカ留学時代をめぐって
|
Causes of Carryover |
平成29年度は、平成27年度と28年度に行なった有島武郎関連文献研究とフィールド・ワークの成果を有島武郎研究会をはじめ国内外の学会で研究発表を行なう予定である。 ただし、研究内容のレベルアップを図るために、アメリカ留学時代における有島関連調査研究を8か月間にわたって米国コロンビア大学で行い、その費用の一部を平成29年度と平成30年度分から前倒して使用した。その結果、平成29年度に予定していた国際日本文学研究集会(日本東京)及び韓国高麗大学日本研究センターと東アジア日本学会(韓国ソウル)への出張費用が不足している。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究費は以下の学会発表の出張費用として使う予定である。 ①「1920年代の朝鮮社会と女性問題、そして『或る女』の受容」:国際日本文学研究集会(2017年11月末開催、東京)②「1920年代の東アジア社会と子供問題、そして「小さき者へ」の受容」:韓国高麗大学日本研究センター(2017年9月講演会予定、韓国ソウル)③1920年代の韓国社会と『カインの末裔』、そして労働問題:東アジア日本学会国際学術大会(2017年10月開催、韓国ソウル)。なお足りない額は個人の研究費を使う予定である。
|
Research Products
(2 results)
-
-
[Presentation] 韓国近代文学の「起源」としての国木田独歩-有島武郎を手掛かりとして2016
Author(s)
丁貴連
Organizer
Graduate Seminar in Modern Literature: Professor Tomi Suzuki
Place of Presentation
The Department of East Asian Languages and Cultures, Columbia University
Year and Date
2016-10-26
Invited