2017 Fiscal Year Research-status Report
方法としての有島武郎-1920年代の朝鮮文壇における女性・子供・労働者の表象
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15K02239
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
丁 貴連 宇都宮大学, 国際学部, 教授 (80312859)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 有島武郎 / 魯迅 / 李光洙 / 「小さき者へ」 / 東アジア知識人の知的共鳴と思想的連帯 / 子供崇拝の思想 / 「われわれはどのように父親となるか」 / 「子女中心論」 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究3年目の2017年度は、1918年に発表されて以来日本は無論、韓国や中国、台湾など東アジアの読者にも深い感銘を与え、朝鮮語と中国語に翻訳発表された有島武郎の『小さき者へ』を手掛かりとして、「アジアの欠落」が指摘される有島が魯迅や周作人、金東仁といった東アジアの近代文学者との間に問題意識を共有していた背景について考察を行なった。その結果、以下の点を浮き彫りにすることができた。 ①1910年代初頭から20年代にかけて日本に留学していた中国と朝鮮のエリートたちは女性や子供、農民など下層勤労階級といった社会的弱者への同情とその解放を主張した有島の作品世界に深く共鳴していたこと。②彼らは有島の作品を愛読するにとどまらず、その感動を自国の読者と共有すべく翻訳出版を積極的に行なっていたこと。③中でも1918年1月に出版された『小さき者へ』は、魯迅をはじめとする東アジアの近代文学者たちに深い感動を与え、中国語訳(1919年11月部分訳、1923年6月完訳、魯迅訳)と朝鮮語訳(1921年2月完訳、朴錫胤訳)に翻訳出版され、広く読者を獲得していたこと。④「小さき者へ」の出版直後の5月と9月、そして翌1919年11月、中国と朝鮮では『狂人日記』(魯迅)と「子女中心論」(李光洙)と「われわれはどのように父親となるか」(魯迅)が出版されていること。⑤これらの三作品は、「小さき者へ」と同じく親を子供のために踏み台にしようという「子供崇拝の思想」を主張していたこと。⑥李光洙と魯迅との間では生涯面識はなく、有島も二人のことは全く知らなかったが、三人は子供を儒教のヒエラルキーから解放すべきだという共通の問題意識を主張していたことなど。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、「最も西欧的な知性の作家」と言われる有島武郎が、近代化を渇望する東アジアの知識人たちと問題意識を共有していたことを明らかにすることによって、「アジアの欠落」が指摘される有島文学が東アジアの近代文学者たちに受容されていた背景を浮き彫りにすることである。 研究初年度の2015年度は、有島の作品が韓国や中国から来日していた東アジアの留学生たちに愛読されていた受容の背景の解明に取り組んだ。2年目の2016年度は、「最も西欧的な知性の作家」と言われる有島文学の本質に迫るためにアメリカ留学時代の有島武郎の足跡をフィールドワークした。そして、研究3年目の2017年度はその成果を踏まえ、「アジアの欠落」が指摘される有島文学が東アジアの近代文学者の間で広くかつ深く受容されていた要因と背景について考察を行ない、その一端を研究論文として発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究最終年度の2018年度は、3年間にわたって行なった文献研究とフィールドワークの成果を、まず有島武郎研究会をはじめ国内外の学会とシンポジウム、研究会などで発表して批判や意見を仰ぐ。次に研究発表をまとめた論文を執筆し、日本や韓国、中国(台湾)などの学会誌や紀要などに投稿する。そして、三つ目に有島武郎の米国留学時代の足跡をたどったフィールドワークを旅行記として発表し、研究の成果を広く一般にも公開する。以下は具体的な発表リストである。 ①1920年代の朝鮮社会と女性問題:有島武郎『或る女』を手掛かりとして ②1920年代の朝鮮社会と労働者問題:有島武郎『カインの末裔』を手掛かりとして ③もう一つのアメリカ:有島武郎のアメリカ留学時代をめぐって
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Causes of Carryover |
2016年度までの成果をまとめて考察を行っていた。 研究最終年度の2018年度は、これまでの成果を日本や韓国、中国(台湾)の学会で発表し、国内外の学会誌と紀要などに研究論文を投稿する予定である。ただし、国内の一部の学会誌と海外の学会誌に研究論文を投稿する際には投稿費用が掛かる場合がある。以下は投稿費用が掛かる学会誌リストである。 ①「1920年代の朝鮮社会と女性問題:有島武郎『或る女』を手掛かりとして」(日本比較文化学会、2018年7月投稿予定、東京) ②「1920年代の朝鮮社会と労働者問題:「カインの末裔」を手掛かりとして」(東アジア日本学会、2018年10月投稿予定、韓国ソウル)
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Research Products
(1 results)