2015 Fiscal Year Research-status Report
白樺派からプロレタリア文学への文学的思想的展開の実証的研究
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15K02246
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
尾西 康充 三重大学, 事務局, 理事 (70274032)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 白樺派 / プロレタリア文学 / 有島武郎 / 小林多喜二 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、大正の作家有島武郎の代表作のひとつ『或る女』『迷路』をはじめ、有島武郎の文学にはアメリカ・ヨーロッパ留学体験が色濃く影響を残している。現地調査をおこなって、有島武郎の生活と思考の推移を丹念に追跡した。さらに新資料を活用しながら、“キリスト教”“社会主義”“植民地主義”“移民”“ジェンダー”などの問題意識を、現代的な視点から考察したものである。とくにロンドン滞在時に、ロシアの無政府主義思想家のクロポトキンに面会したことに着目し、ロンドンの都市背景や思想状況を視野に入れながら、有島武郎の思想にどのような影響を与えたかを検討した。 上記の考察と同時に、本研究は、最新の資料や研究成果に基づいて、同時代の作家との交流や当時のマルクス主義の影響など、昭和の作家小林多喜二の作家的主体の形成プロセスと思想的深化を克明に描き出した。とくに白樺派の作家作品が小林多喜二の文学にどのような影響を与えたのかを明らかにした。これらの考察をふまえて小林多喜二の主要作品の時代背景と文学的特徴を解き明かし、その現代的価値を再評価した。 1900年代から1930代にかけて、第一次世界大戦前後の国際的な思想・文学状況を視野に入れて、白樺派からプロレタリア文学への流れを、有島武郎から小林多喜二への系譜で追究しようとした研究である。日本近代文学を国際的な潮流のなかに位置づけ、世界文学の観点からとらえなおそうとする試みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2015年9月、北京の魯迅博物館に調査に出掛けた。博物館は阜成門内西三条の魯迅旧居の東側にある。今回の北京調査は、シルバーウイーク期間を利用して、北京師範大学での集中講義「移民と開拓地/植民と植民地―近代日本文学の精神構造」と、中国社会科学院外国文学研究所での講演「戦後七〇年、和解を導く文学研究」をおこなうのに合わせてであった。 魯迅博物館を調査したのは、魯迅の蔵書を見学するためであった。それら一切は全国重点文物保護単位の指定を受けているので、簡単には閲覧できない。事前に許可を受けたうえで、厚い扉で隔てられ厳重に管理された地下書庫に入った。蔵書目録にもとづいて閲覧したのは、魯迅晩年の1930年代、上海の内山書店を通じて魯迅が購入した和書であった。マルクス主義関連の書籍が多く、いずれも日本では発売頒布禁止処分を受けたものばかりである。そのなかの一冊、『小林多喜二選集』は多喜二が虐殺された直後、作家同盟のメンバーが協力して編集刊行された。特高警察といえども発禁本の全冊を押収できず、差し押さえ洩れとなった一部が上海に輸出されたのであった。 魯迅は文学と思想の素養を、日本からの輸入書を通じて身につけていた。日本では現物を手にする機会が少ないこれらの発禁本に触れて、1930年代の日中の思想・文学状況を考察することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の成果にもとづき、来年度は、有島武郎のロンドン滞在時代を調査するために、ロンドンでの現地取材をおこなう予定である。ロシアの無政府主義者クロポトキンと面会した記録が残っているが、当時のロンドンの都市背景と、思想状況等を現地調査で資料を収集する予定である。 なお研究方針に変更はない。
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Causes of Carryover |
当初は国際日本文化研究センターでの文献調査を予定していたが、勤務先業務の関係で出張することができなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
予定通り、国際日本文化研究センターでの文献調査をおこなう予定である。
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Research Products
(1 results)