2016 Fiscal Year Research-status Report
白樺派からプロレタリア文学への文学的思想的展開の実証的研究
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15K02246
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
尾西 康充 三重大学, 人文学部, 教授 (70274032)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 小林多喜二 / プロレタリア文学 / 有島武郎 / 白樺派 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ドイツ・アウシュヴィッツ裁判の担当検事フリッツ・バウアーによる裁判記録を調査し、ファシズム体制下の戦争と法に関する記録を収集した。バウアーは、ナチスの戦争犯罪を、はじめてドイツ国内で起訴した検察官である。法理論にもとづいて「法に内在する不法」をいかに裁くか、という問題から、日本のファシズムの特質をとらえた。小林多喜二をはじめとするプロレタリア文学が「法に内在する不法」をどのように描いたのか、作品を個別的に検証しながら分析した。 集団を形成する圧力が個人の内面を無意識に変容させる。集団から認められようとして同化を急ぐ個人は、集団を支配している権威に同調し、服従するプロセスにおいて権力を内面化する。 小林多喜二の「一九二八年三月十五日」(「戦旗」第一巻第七、八号、一九二八年一一、一二月)には、小樽警察署の留置場でおこなわれた拷問の実態が描き出されている。凄惨な拷問が繰り返しおこなわれたのはなぜか。 特別高等警察に配属された刑事たちは、〝国体護持〟を目的に選り抜かれた警官であることを自覚し、他の警官以上に反共イデオロギーを内面化させていた。そして特高課の組織拡大を目指し、思想犯や政治犯の検挙数を増加させることに齷齪していた。容疑者を内偵して検挙し、拷問によって自白を強要するという彼らの行動は、すべてが秘密主義で覆われていた。その結果、肥大化した特高警察は活動家たちを、そして多喜二を死に至らしめるまで激しい暴力を浴びせ続けることになったのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ドイツ・フランクフルト大学フリッツバウアー研究所にて、アウシュヴィッツ裁判の公判記録に関する資料を収集した。それらの資料は、ドイツ語で記載されているために、それを読みこなすのに時間がかかった。 さらに昭和前期の日本のプロレタリア文学の作品を個別的に分析し、当該時期における日独の文学の比較をおこなった。上記の状況から、本研究はおおむね順調に進展していると判断できると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きドイツのファシズム期における文化統制に関する資料を収集する。同時に、昭和前期の日本の検閲体制や言論統制の記録を分析し、日本のプロレタリア文学がおかれた状況を明らかにしたいと考えている。当初の研究計画の変更はない予定である。
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