2017 Fiscal Year Annual Research Report
Empirical study of literary ideological development from Shirakaba to proletarian literature
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15K02246
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
尾西 康充 三重大学, 人文学部, 教授 (70274032)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | プロレタリア文学 / 白樺派 |
Outline of Annual Research Achievements |
白樺派の有島武郎からプロレタリア文学の小林多喜二への流れは、大正から昭和へという時代区分の転換のみならず、白樺派からプロレタリア文学へ、無政府主義から社会主義へと、日本文学史上の諸傾向の重要な転換を示している。この意味において、両作家の作品は、1900 年から1930年代にかけての文学・思想を解き明かすための貴重な手がかりである。 有島武郎が滞在したアメリカの諸都市、具体的にはフィラデルフィア、ボストン、ワシントンに出張し、滞在当時の資料を収集した。彼が在籍した学校の学籍簿や宿泊したホテルの宿泊台帳、アルバイト先の勤務記録などといった滞在記録に加えて、当時の新聞雑誌の記事を広く集め、有島武郎がアメリカ社会のどのような社会環境の下で生活し、アメリカの民衆とどのような接点を持っていたのかを明らかにした。これら収集した資料の一部を日本語に翻訳した。有島武郎はアメリカの資本主義に対する違和感からクロポトキンの無政府主義へと傾倒していったのであるが、同時に移民に開かれた社会であることにも可能性を見いだし、人種民族差別を克服する道を模索していた。小林多喜二たちの昭和プロレタリア文学の先蹤となった大正白樺派の初期社会主義を体現した有島武郎の文学は、このようなアメリカ留学体験にもとづいていたのである。 他方、小林多喜二の自筆草稿ノート(全13 冊、約1700 頁)の一部を翻刻した。多喜二の創作過程を明らかにするとともに、作品の背景にあった国内外からの文学的思想的な影響を明らかにした。 大正と昭和という違う時代の制約から有島武郎は無政府主義に親近感を抱いたが、思想と実践との一体化を重んじたプロレタリア文学の先駆者として、有島の文学は多喜二の作品とともに高く評価される。本研究は両作家の流れと発展とを、文学史上、思想史上の観点から意味づけたのである。
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Research Products
(3 results)