2016 Fiscal Year Research-status Report
太平洋戦争後の〈戦後文学〉に描かれたタイ表象の分析研究
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15K02250
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
久保田 裕子 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (30262356)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | タイ / 戦後文学 / 日本近代文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
1、国会図書館や日本国内の大学図書館等を調査し、タイの人と社会を描いた昭和10年代から現在に至るまでの日本文学テクストを収集し、書誌情報を確認した。この研究資料調査の成果に基づき、論文の執筆や学会発表を行った。 2、1の資料に基づき、太平洋戦争戦後の〈戦後文学〉に描かれたタイの文化表象について分析した。タイの人と土地を描いた日本近代文学テクストの調査・収集を継続して行った。日本文学に描かれたタイ表象が、同時代言説をどのように反映し、独自のイメージが構築され、流布されたかという経緯について考察し、ツーリズムなどの視点を通してタイ文化表象のさまざまな位相について明らかにする論文を発表した。 3、三島由紀夫のテキストについて、海外で翻訳された資料を収集し、翻訳目録の作成を行った。三島のテキストの海外翻訳は太平洋戦争後に始まったが、翻訳状況を見ることによって、三島文学の受容と国際的研究について考察する上での基礎的資料になると考えられる。この件は当初の計画には記載されていないが、戦後文学について考察する上で、国際的な受容状況や、海外の読者について考察するときに、基礎的資料として、三島由紀夫の翻訳テキストについて調査・分析をすることが必要と考え、本研究の中に組み込むことが適切と判断した。なおこの調査分析は継続して行う予定である。 4、1・2の研究成果として、国際三島由紀夫シンポジウムの成果を共著としてまとめた図書の刊行1件、学術論文3、学会発表1件、講演1件を行い、研究成果を公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗状況としては、おおむね順調に進展しているが、理由は以下の通りである。 1、『抵抗と抗戦―三島由紀夫と日本、そして世界』(水声社、2016年刊)を編著者として刊行した。平成27年度に本研究の一環として、「国際三島由紀夫シンポジウム2015」を実施したが、三島に関する国際シンポジウムは日本初の試みであり、さまざまな三島論が提出される場所となった。本書はその成果を書籍化した内容であり、英米独や韓国など国内外から三十人余りの著者による論文、対談等が含まれ、三島研究の国際的な受容状況が明らかになった。 2、日本近代文学テクストと同時代資料との照合・分析と考察を行った。平成28年度に調査で収集した資料に基づいた分析・考察を行い、論文として公表した。 3、タイについて言及した日本語雑誌・図書から、時代ごとの社会・文化をめぐる言説を時系列に従って抽出し、小説・紀行文・ルポルタージュなどのテクストと比較・照合することでタイ表象が構築された経緯をたどり、その歴史的意味について分析する。戦中・戦後を挟んで、小説・随筆・児童文学・教科書などのテクストの中のイメージの構築と流布の経緯について考察した。 3、太平洋戦争後の〈戦後文学〉の作品として、〈観光小説〉〈バックパッカー小説〉として分類可能な作品について、トラベル・ライティングの系譜に連なる作品として分析した。 4、研究成果について学会発表以外に、「福岡県高等学校国語部会」で高等学校教員を対象に講演を行い、研究成果を教育の領域においても発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の推進方策としては、以下の点を計画している。 1、平成27年度内に、国会図書館や日本国内の大学図書館等を調査し、タイの人と社会を描いた昭和10年代から現在に至るまでの日本文学テクストを収集し、書誌情報を記載した目録を作成する。これまで蓄積した成果に加え、本研究を通して得た最新情報を反映させる。 2、タイについて言及した日本語雑誌・図書から、時代ごとの社会・文化をめぐる言説を時系列に従って抽出し、小説・紀行文・ルポルタージュなどのテクストと比較・照合することでタイ表象が構築された経緯をたどり、その歴史的意味について分析した。 3、タイ人研究協力者と共に、研究成果を日本で開催される学会において発表する予定である。 4、タイなどのアジア地域の日本文学テキストの翻訳調査は、欧米に比べて手薄な領域であった。翻訳数の多い三島由紀夫のテキストについて、アジア地域を含む国と言語についての調査を継続して行い、日本文学の海外受容状況について考察する。
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Causes of Carryover |
平成28年度の研究計画に従い、研究を円滑に遂行したが、その過程で生じた予算執行金額は、ほぼ予定通りの金額内に納まった。図書費などがやや少なかったため、残額は1万円程度になったが、次年度に有効に活用することにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度に対象の余剰があった金額については、当初の執行予定金額に図書購入費を加えた費用に充てる予定である。図書費については、執行予定金額が多少、増加することで、本研究の遂行にあたって、有効に活用することができる。
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Research Products
(6 results)