2018 Fiscal Year Research-status Report
水戸藩と九州諸藩を中心とした近世前期の史書・記録類編纂と情報流通の研究
Project/Area Number |
15K02266
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
倉員 正江 (長谷川正江) 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (70307817)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 朝鮮物語 / 大河内秀元 / 藤森弘庵 / 和泉屋善兵衛 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は大河内秀元著『朝鮮物語』の写本・版本の諸本調査を基に、写本成立の背景と流布、版本成立前後の状況と流布を考察した。『朝鮮物語』は秀元が慶長の役(慶長二年〈一五九七〉~三年)に従軍した際の朝鮮における実体験と日記を基に、寛文期(一六六一~)になってから成稿した書である。従来も「続群書類従」「通俗日本全史」の二種類の活字翻刻があり、後年の回想による誇張や文飾も皆無ではないが、内容のリアリティについては相応の評価を得ている。今回の調査で、東京大学史料編纂所蔵押小路家蔵写本が古態を示す点、写本に嘉永二年版本(「通俗日本全史」底本)の系統と「続群書類従」の系統の二種があり、後者巻末に本文の省略がある点、従来ほぼ未紹介の宮内庁書陵部蔵本「武辺叢書」系統の写本は、内容の大概は版本型と一致しているが宛漢字・表記にやや特殊な語彙や傍訓が目立つ点、版本には嘉永二年の刊記を持つ初版本(大本)と再版本(半紙本)があり、ともに伝本は多いが後者は明治期の二代目和泉屋善兵衛の刊行とみなされる点、等の知見が新たに得られた。 また版本の序を執筆した儒者藤森弘庵が起用された事情、版元となった江戸の書肆和泉屋善兵衛の初代・二代にわたる動向等、幕末から明治にかけての出版界の状況について考察した。版本の蔵版者となった糸魚川藩家老の佐治信については不明な点も多いが、和泉屋と縁戚関係にある可能性から積極的に出版に関わったとみられる点、早稲田大学図書館蔵『朝鮮物語』は依田学海旧蔵本で岩本贅庵の書入れがあり、知識人の間に外圧による海防意識が高まり、こうした時代風潮が『朝鮮物語』の好評につながった点も浮かび上がった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は論文一本の発表にとどまったことは事実として認めざるを得ない。特に諸本調査は多くの所蔵機関を訪書する必要があるため、どうしても調査旅行に時間を取られたという現実がある。 ただし、調査の過程で大河内秀元の他の著作の意義、「武辺叢書」の編纂・流布の状況と収録された未翻刻作品、特に軍書の研究の新たな可能性を実感することができた。 また書肆和泉屋善兵衛の旺盛な出版活動と明治末期の没落まで、生糸商中居屋重兵衛周辺の知識人の交友関係、幕末明治期における知識人の日記等から判明する時代状況等、今後に発展する研究テーマや材料を得ることができたと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
近世前期という時代区分を研究区分としているため、現在は以前『太閤記』の秀吉朝鮮出兵記事関連で取り上げた小早川能久著『翁物語』を再度考察の対象としている。中でも三浦浄心著『北条五代記』に対する批判から、『甲陽軍鑑』等との比較に及ぶ計画である。当時軍書や特に甲州流軍学者に対し如何なる認識が持たれていたかを考察する。小幡景憲ら軍学者や、軍書作者といった人物に関しても、諸記録から資料を探索中である。 平成31年度は補助事業期間の最終年度ということもあり、すでに収集した文献資料を最大限に生かすという発想で、総括を心掛けたい。
|
Research Products
(1 results)