2015 Fiscal Year Research-status Report
1920-30年代の「認識論」と「経済学」による文学の「価値化」に関する研究
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15K02269
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
位田 将司 日本大学, 経済学部, 助教 (80581800)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 新カント派 / 価値哲学 / マルクス経済学 / 改造社 / 円本 / リッケルト / 認識論 / 日本近代文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
1920-30年代における日本近代文学の「文学の価値」に関する調査・研究をおこなった。そこで注目したのが、マルキシズム文学者、哲学者、経済学者らを中心として始まった「芸術的価値論争」である。「文学の価値」とは何か、という問いをめぐってなされた「論争」であったが、この「論争」の背後には理論的なバックボーンとして、新カント派の認識論である「価値哲学」と「マルクス経済学」の二つが存在していた。従来、マルキシズム文学者との関係から、「論争」と「マルクス経済学」の関係は強調されていたが、加えて「価値哲学」が理論的に深く関わっていたことは指摘されてこなかった。そこで論文「「文学」の「価値」―横光利一と「芸術的価値論争」(『語文』2015・6)によって、「文学の価値」というものが、「マルクス経済学」と共に「価値哲学」によって理論的に基礎づけられようとしていたことを明らかにした。この経済学と認識論の理論的な関係が明らかになったことにより、「文学の価値」がメディア環境とともに、同時代の思想・観念からの影響によっても構築されたことが判明したのである。 経済学に加え認識論を考察したことにより、人間の「文学」に関わる「主観性」が経済的な「価値」に変換される過程を、実証的かつ理論的に追跡可能になるのである。「文学の価値」は、メディア環境や出版社のマーケティングだけで成立したのではなく、認識論という「主観性」の側面で、観念的に進行して始めて、「文学」を「価値」として認識するようになったといえる。 また、この認識論の調査過程で、岡本太郎と横光利一の思想的な交流の接点にも触れることができた。この二人の理論的な関係性は、2016年度に公表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在は新カント派の「価値哲学」及び哲学者と改造社の関係を調査している。雑誌『改造』に創刊号から1940年代にかけて掲載された論文や記事を、新カント派の認識論やマルキシズム文学者、その他経済学や認識論に関わる事項と人物に絞って網羅的に収集している。研究補助者の協力のもと1930年初頭まで資料の整理を進めており、この資料調査により改造社と「価値哲学」及び哲学者の理論的な関係が明らかになると考えている。そしてこの「価値哲学」と改造社の関係が、「円本」という「文学の価値」をまさしく貨幣価値へと還元したマーケティングへと、いかなる形でつながっていくのかを考察することができるようになる。 また「価値哲学」と「マルクス経済学」という認識論と経済学との理論的関係も論文として公表することで、研究精度を高めることができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は引き続き、雑誌『改造』の掲載論文と記事を、研究方針と計画に従って網羅的に収集し整理していく予定である。ここで収集された資料を基に実証的な調査と理論的な調査を組み合わせることで、「文学の価値」が生成される過程を明らかにするつもりである。 また、九州の宇佐市民図書館で、横光利一の原稿を調査する。横光は新カント派の影響を受けていることが判明しているが、横光が「株券」を主題として発表した小説『家族会議』を分析することで、横光の1930年代における「文学」の経済性について明らかにしたいと考えている。そして、川内まごころ文学館で改造社の関係の資料の調査も予定している。 認識論と経済学による「文学の価値」の生成過程を実証と理論の両面から研究したい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、旅費を使用して行う調査を次年度へと予定変更したためである。旅費を使用しない調査が予想以上に進捗し、収集をおこなった資料の量が増加したことで、今年度は旅費を使用しない調査と資料整理を中心におこなった。そのため旅費とそれに関わる調査費用を使用しなかったため、次年度使用額が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は旅費を伴なう調査を複数予定しており、また資料の電子化とアーカイヴ化を目指しているため、調査の旅費及び電子データ化のための費用として、予算を使用する予定である。
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