2015 Fiscal Year Research-status Report
「土地の想像力」を生み出す近代文学の「風景表象」の空間構成
Project/Area Number |
15K02272
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
中島 国彦 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (00063785)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 風景表象 / 土地の想像力 / 堀辰雄 / 最暗黒の東京 / 近代文学 / 木下尚江 / 自然描写 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の意図するところは、日本の近代文学者の営為において、「自然」「風景」「都市」がどういう言語で描かれているかの具体例を分析しつつ、それを文学史の問題として体系化し、従来とは違ったシステムの中で定着することにある。27年度は、全体の構想を念頭に置きつつ、明治から昭和の文学者の中の「風景表象」を具体的に跡付けることを試みた。具体的な作品の分析と、「風景表象」の地理的実態との相関を絶えず念頭に置き、実証と問題提起を絡ませることを第一にした。論文の形で成果を公表出来たのが、明治期の正岡子規、明治大正期の夏目漱石、昭和期の堀辰雄の文業である。以下論文を掲げる。 「「小品」という世界と漱石の表現―『永日小品』と『それから』にみる漱石の一九一〇年―」(平成27・10「国文学研究」) 「幽冥の世界への前奏曲―堀辰雄のショパン「二十四の前奏曲」研究をめぐって―」(平成28・3「比較文学年誌」52) 「子規随筆の意味するもの―『明治卅三年十月十五日記事』の周辺―」(平成28・2「早稲田大学大学院文学研究科紀要」) その他、夏目漱石の生涯を念頭に置きつつ、土地の記憶との関係を時代順にたどった「漱石を読む、漱石を歩く」(全12回、平成28・2以降、「共同通信」配信)も執筆、論者の視点をわかりやすく社会に発信する試みとした。分析に当たって、作品の文体・キーワード・人称・メタファーなど多角的に扱い、そうした表現が時代や表象される場所との関係によってどう変容していくかを、丹念に跡付けた。こうした視点と達成は、従来の文学史的記述を更に進化させる試みとなるだろうと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時の研究計画の中で、平成27年度に松原岩五郎『最暗黒の東京』の注釈完成を挙げているが、この経過がやや遅延している。関連する二葉亭四迷や横山源之助に関する新しい資料の解析が、もう少し時間が必要になったからである。あせらずに必要な作業を進めたい。 計画の中に組み込んでいる堀辰雄関係の作業は順調で、「風景表象」関連以外の事実については、新しい発見があり、論文化することが出来た。 夏目漱石を中心として東京の「風景表象」をまとめる作業もさまざまな文章で成果を発信しており、次年度の単著の刊行を目指して成果を積み上げている。
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Strategy for Future Research Activity |
文学作品の注釈研究は、さまざまな調査の最終結果でもある。あせらず丹念に資料を集め、注釈に生かしていきたい。また、研究の過程で明らかになったのは、全国に散在する基礎資料の調査がまだまだなされていないことである。東京以外にも、京都府総合資料館、大和高田市和久々文庫、広島大学加計家資料など、調査によって成果が期待されるものも多い。今後はそうした文庫・資料館での基礎調査にも精力を注ぎたい。一方、研究成果の社会への公開も大切で、新年度には夏目漱石の「風景表象」を扱った単著の刊行の準備をしたいと思っている。
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Causes of Carryover |
資料購入費としての図書の支出が、最終精算時に若干半端な数字が出た。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
小額であり、次年度の図書購入費に組み入れて使用する。
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