2016 Fiscal Year Research-status Report
「土地の想像力」を生み出す近代文学の「風景表象」の空間構成
Project/Area Number |
15K02272
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
中島 国彦 早稲田大学, 文学学術院, 名誉教授 (00063785)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 風景表象 / 土地の想像力 / 堀辰雄 / 夏目漱石 / 東京 / 自然描写 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の意味は、日本の近代文学者の表現の中で、「自然」「風景」「都市」「田園」などの概念が、どう形象化されているかを丹念に辿り、そこに一つの秩序・論理性を発見することにある。具体的な事例は沢山考えられるが、特に都市と田園、東京と地方について、典型的な文学者を見出し、その営為を分析する。今年度は、特に、東京に生まれで信州の自然や田園をこよなく愛した堀辰雄と、東京に拠点を置きながら、折に触れて地方の風物に眼を注ぎ、見事に形象化した夏目漱石の仕事を中心に、研究テーマを絞ることとした。 堀辰雄に関しては、信州追分の堀辰雄文学記念館での資料調査を継続しつつ、堀の洋書の所蔵先である神奈川近代文学館での調査を合わせ、堀辰雄の「風景表象」に潜む悲劇性や、それを支える外国芸術の実態を論じてきた。その成果は、日本比較文学会の東京支部の7月例会での研究発表「「悲劇的」という言葉の意味するものー堀辰雄の音楽体験を出発点としてー」(7月16日 清泉女子大学)で試みた。 この2年間は、夏目漱石没後100年、生誕150年にあたり、様々な話題が飛び交った。展覧会も多く、その機会に新資料が発見されたりした。「風景表象」の概念をテコにして、漱石を論ずる試みは、昨年度から「共同通信」に執筆し全国に配信された12回の連載「漱石を読む、漱石を歩く」にまとまっている。さらに数年前から継続している岩波書店蔵の漱石宛て絵はがきの分析が、書物『漱石の愛した絵はがき』(2017・9、岩波書店、長島裕子との共著)や、展覧会「漱石ー絵はがきの小宇宙」(2017・9ー11 日本近代文学館)に結実した。日本全国からの漱石宛て絵はがきの分析は、初めての試みで、日本全国、時には外国からの映像が、そのベースにあることが確認された。 新宿区の「漱石山房記念館」はまさに「土地の記憶」をベースに計画された。その活動も忘れられない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時のいくつかの計画の中で、その重要性が認識されたのが、夏目漱石における空間表象の問題である。ちょうど漱石没後100年、生誕150年の記念の年を迎えて、新宿区が計画している「漱石山房記念館」は、まさに土地の記憶を支えにして建設される。 そうした機運にかんがみ、研究のテーマの中心を漱石に定め、それとの関連において明治から昭和の文学者の営為を考察することとした。近代文学者を絶えず漱石との関係で考えることは、大きな意味があると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
当面は、漱石の「風景表象」を都市と地方の風物を媒介にして深めたい。広島・熊本・高松・京都などすでに実地踏査の済んでいるところも多く、今年度はさらに松山・金沢・秋田での調査を計画中である。 特に成果が期待されるのが、広島の加計家の資料で、漱石のみならず広島出身の鈴木三重吉にも関係し、その成果が期待される。論文の形で発表したい。 実現できそうなのが、漱石と都会の風景についてまとめた著書の刊行である。今年の秋を目指している。また、漱石以外の文学者については、別の著書にまとめるべく、準備をしている。そのためには、もう1、2編論文を執筆することが必要だと思われる。いよいよ全体の概観をまとめる時期に来たという感を強くする。 なお、研究の成果は、論文・著書だけでなく、社会人講座での話の中でも発信できるように思う。
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