2018 Fiscal Year Research-status Report
陽明文庫一般文書文学関係資料のデータベース化による近世初期宮廷歌壇の研究
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15K02277
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Research Institution | Kyoto Women's University |
Principal Investigator |
大谷 俊太 京都女子大学, 文学部, 教授 (60185296)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 近衛家 / 前久 / 信尹 / 三藐院 / 信尋 / 尚嗣 / 法楽和歌 / 狂歌 |
Outline of Annual Research Achievements |
〇陽明文庫一般文書の閲覧・調査のため、陽明文庫に出張した。(4/17、5/29、7/3、9/10、10/16、11/27、12/11、1/15、2/22、3/24、3/27 の計11回) 〇宮内庁書陵部ほかに近衛信尹・信尋関連の近世和歌関連資料の閲覧・調査に出張した。(11/13、11/20、12/18、2/19・20、2/25・26、3/4・5、3/11・12) 〇上記閲覧資料等について解読・分析を行い、適宜複写を依頼し収集した。調査記録・翻字をもとに、学生アルバイトによりデータ入力を行った。 〇近衛信尹・前久の法楽百首和歌について調査・研究を行い論文を執筆した(「三藐院近衛信尹詠「住吉法楽一夜百首」のこと」『歌神と古今伝受』和泉書院、2018年10月・「近衛信尹・前久詠「法楽一夜百首」攷」『女子大国文』163、2018年9月)。信尹が詠じた「住吉法楽一夜百首」「北野法楽一夜百首」の成立年時を明らかにし、信尹の父前久が各々に批評の言葉を残し、二百首に応える形で「百首和歌」を詠んでいることなどから、歌神への「法楽和歌」であるこれらの百首をめぐる営為の意義について考察した。これらの百首が詠まれた慶長五年から九年時点において、未だ信尹に嗣子がおらず、前久・信尹は、摂家としての近衛家の将来を憂慮すべき状況にあった。従って、家門の繁栄と存続の為、これらの法楽和歌は詠まれたと考えられる。前久はこの前後、他にも一夜百首を何度も詠じており、家門存続の重圧を荷う役割を和歌が果たしていたとも言える。 〇近衛信尋筆狂歌合『玉吟抄』について、前年度にその本文と校異を公にしたのに続き、その作者と成立、信尋筆本の優位性につき考察を行った。 加えて、和歌と狂歌の詠歌方法の共通性について言及し、狂歌が堂上家の所為としてふさわしいと指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
○先ずは陽明文庫に実際に出張し、当代関連資料を可能な限り実際に閲覧し、その場で書誌的調査を行い、翻字作業を行うことを、研究の基礎作業と位置付けているが、本年度もこれまでと同様に十回余の出張を行うことができた。これは、当該文庫の閲覧受け入れ数に限度がある中で、充分な数と言える。 〇これまでの調査において、近衛前久・信尹・信尋の自筆資料についてはほぼ閲覧をすることができた。閲覧を行った資料について、解読・翻字・整理作業を継続して行っているが、前久・信尹の自筆資料の解読・翻字については、書状類を除けば八割程度の作業は終えているとの見通しを持っている。解読・翻字を行った資料については、データベース化の入力作業を随時進めてきている。 ○陽明文庫以外にも、宮内庁書陵部・京都大学文学部古文書室などにおいて近世初期宮廷文学関係資料の閲覧・解読・翻字作業ならびに収集を行っており、陽明文庫資料の立体的把握に役立てることができる環境の整備を行った。 〇近衛信尹・前久の法楽百首和歌の論文において、家門の継続と繁栄のためという現実的で切実な問題と深く関わる形で和歌を詠むという営為がなされていたことを証明することができたのは、当代文化における和歌などの文学の存在意義について、また、当代以外の和歌などの文学の在り方についても、有効な視点を提供できたと思われる。 〇近衛信尋筆狂歌合『玉吟抄』の論文において、狂歌が堂上家の所為としてふさわしいことを明らかにしたことで、宮廷文学の持つ幅の広さ・柔軟性あるいは洗練性を指摘することができたと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
〇本年度は最終年度として、データベースの完成に向けて、これまで入力したデータに読み間違い、入力ミスがないかをチェックすることと、未だ解読・翻字のできていない資料を補足しデータ入力を行うこととなる。これまでの入力は、できるだけ原本の書式を再現する形で行って来ているが、それに加えて今年度は、データの検索・並び替えの便を考え、エクセル化の作業を行う。 〇以上の作業を経て、既調査資料を一覧し、適宜分類・排列を行い、陽明文庫一般文書室町末・江戸初期文学関係資料データベースを構築し、同資料集の公刊に備える。 〇上記データベースを活用して、資料集の和歌・人名・書名索引を作成する。さらに、上記データベースを活用して、近衛前久・信尹・信尋文学年譜を作成する。 〇同資料の中から特に意義ある資料を選び論じることで、近世初期宮廷歌壇の実態を明らかにし、和歌史における意義を考察し、当代文化の中に位置付ける。
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Causes of Carryover |
次年度に中心的に行う入力データのチェック作業とエクセル化に対応すべく、新規にパソコンの購入の必要があるため、そのための費用の補助として、次年度に58,476円を持ち越した。
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Research Products
(4 results)