2016 Fiscal Year Research-status Report
中英語頭韻詩と脚韻詩の対立・融合・変容発達の過程を探る:韻律と意味の観点から
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15K02287
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
井上 典子 小樽商科大学, 言語センター, 教授 (70708354)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中尾 佳行 福山大学, 大学教育センター, 教授 (10136153)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 中世英文学 / 韻律 / 脚韻詩 / 頭韻詩 / 中英語詩 / 定型句 / 後半行 / 前半行 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は、ラングランドのPiers Plowmanの分析を開始し、現在も続行中である。この作品は大作・かつ複雑であるため、調査にかなりの期間が必要である。この調査によって、非脚韻頭韻長行の韻律構造をより明確にし、14世紀後半に書かれた頭韻詩群が同一の厳格な韻律ルールのもとに詩作を行っていたのか、もしくは、同じ頭韻詩であっても、北・北西部で制作された頭韻詩(例えば 『ガウェイン』詩人の作品)と南西部・ロンドンエリア(例えばPiers Plowman)で制作されたと考えられている頭韻詩には、韻律ルールに多少のばらつき(柔軟性)があったのかどうかを明確にすることが目標である。 研究分担者は、チョーサーの脚韻詩において、脚韻構造に頭韻構造が組み合わさることで、脚韻詩はどのような意味論・語用論的な付加価値が加わるかを、認知言語学の立場から叙述・説明を試みた。口承的なロマンスにおいて、例えば1330-1340年頃にロンドンで制作されたと考えられているAuchinleck MSに含まれるロマンス作品(Amis and Amiloun, Beues of Hamptoun, Sir Guy of Warwick等)には多くの頭韻を踏んだ定型句が使われている。チョーサーはこの頭韻句をただ一昔前の低落したものとして使用するのではなく、新たな文脈の中に溶解させ、新たな意味付けを試みていることを調査した。例えば、bright in bourde, worly in wedeのような頭韻句を、詩行の後半行に脚韻を踏ませて使用したとしても、談話的にそのヒロインあるいはヒーローの実態化を伴わず、不完全燃焼に終わるなど、賞賛と批判とが微妙な緊張関係に置かれていることが分かった。このような使用を認知言語学でいうプロトタイプからずらし、拡張事例化の一環として捉えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究代表者は、家庭の事情等で十分な研究時間を確保することができず、予定していたラングランドの韻律分析を完了することができなかった。しかし、平成30年度10月より1年間のサバティカルを取得予定であるので、研究期間を1年延長し、遅れた分を取り戻したいと考えている。 研究分担者は、チョーサーの『カンタベリー物語』(脚韻詩)の写本及び初期刊本(Caxton)の比較研究を主として統語法の観点から、jimura, Nakao, Kawano, and Satoh (2016)において、また同作品の初期写本Hengwrt MSとEllesmere MSの比較研究を主としてパンクチュエーションの観点から、中尾・地村(2016)において、行った。また現在執筆中の著書Chaucer’s experiment of schematization in the language of Sir Thopas: A multi-dimensional extension of “diminution”においては、チョーサーが口承的で伝統的な頭韻句を脚韻詩(テイルライムロマンス)の中にどのように融合的に取り込み、その使用のイノヴェーションを行っているかを、議論の一環として検証した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者は、引き続きラングランドのPiers Plowmanの韻律分析を続行し、その調査結果を論文としてまとめ、査読付きの学術雑誌に応募することが第一の目標である。その後、頭韻だけはなく脚韻も特徴とする脚韻頭韻詩の韻律構造の調査に進み、ME頭韻詩の韻律構造における全体像、そして韻律と意味とのかかわりを明らかにしていきたい。これらの研究目標は、上記で言及したように、科研の研究期間を1年延長させて頂き、平成30年度10月から平成31年度9月末まで1年間のサバティカルを取得予定であることを考慮し、修正したものである。 研究分担者は、イーストミッドランドで流布した脚韻韻律ロマンスを取り上げ、頭韻句の語彙統語特徴と、その韻律分析を行う。Cotton Caligula A. II写本(14世紀版をチョーサーは読んだ可能性がある)のSir LaunfalとLybeaus Desconusに注目し、ここでの頭韻句を取り出し、この2つのロマンスとチョーサーの脚韻詩との接点及び相違点について調査する。
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Causes of Carryover |
研究代表者が、家庭の事情等により十分な研究時間を確保することができず、家を留守にすることも不可能な状況の中、学会発表・出席するための旅費を使用しなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、国内の学会発表や資料収集のための渡航費・滞在費に使用したい。
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Research Products
(8 results)