2019 Fiscal Year Research-status Report
英語圏および日本語の文学作品におけるポライトネスの機能
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15K02292
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
阿部 公彦 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (30242077)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ポライトネス / 文学 / 英文学 / 共感 / コミュニケーション |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度も引き続き、ポライトネスと「誤読」や「遭遇」の問題についての研究をつづけた。コミュニカティブ・アプローチの批判的検討を通して見えてきたのは、しばしばこうしたアプローチが、言語ごとに微妙に違うポライトネスの作法についてやや鈍感だということである。しかし、その鈍感さやそこから生ずる誤解を通して逆に言語ごとの差異についての新しい知見に至ることもある。怪我の功名だといえるだろう。 今回とりわけ力をいれたのはEmpathyをめぐるさまざまな議論との接続の検討である。Empathy研究から得られた非常に興味深い知見としては、いわゆる「自閉症」と診断される人が、一般には考えられているのとは逆に、過少なempathyではなく過剰なempathyの力を備えているということである。物に対する過剰なempathyが「自閉症」と呼ばれる症状の何かを説明するらしい。 これを文学作品に応用していけば、自由間接話法における語り手と登場人物との関係や、読者と登場人物の関係の説明にも役立てることができるだろう。ときとして私たちが感情移入しずらいと思える登場人物に感情移入してしまえるのはなぜか、といった問題にも何らかの光をあてることができるだろう。 こうした問題も視野に入れながら、筆者は文学作品に関しては森鴎外やディケンズの諸作品などに焦点をしぼった成果を発表した。またポライトネスの機能について分析しつつ、言語論にも話をひろげた論考をいくつかの媒体に発表することもできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究はおおむね順調に進展した。本年度も英語教育をめぐる議論に時間をさくことになったが、英語教育関係者との議論は筆者にとっては非常に有益で、言語運用についての考察をおおいにすすめることにつながった。あらためてコミュニケーションとは何かということを考える機会にもなったのである。 あわせて国語関係者とのディカッションも非常に有益でこちらも成果発表につなげることができたと考えている。本年もひきつづき「そもそも発話とは何か」「言語表現とは何か」といった問いにこだわっている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究はおおむね順調に推移してきたが、本年は学内で重職についたため、予想外の障害も生じ、また最終年度3月に予定していた活動も、コロナ問題のために先送りせざるをえず、翌年に研究機関を延長した。従って、2020年度にはそのやり残した研究にまとまりをつける予定である。近代から現代にかけての文学作品に内在する「遭遇性」の問題と、作者と読み手、語り手と聞き手、語り手と登場人物といったさまざまな関係性の中で形成される「ポライトネス」についてさらに形にして公表することを計画している。
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Causes of Carryover |
すでに触れたように研究期間延長が必要になったのは、学内の仕事の都合による。会議の数が格段に増え、研究に割く時間がかなり減ることになった。また、これままったく予期していなかったことであるが、2月と3月に予定していた出張や成果発表は、コロナウィルスの影響で中止せざるを得なくなった。とはいえ、本研究の成果発表はおおむね順調にすすめてきているのであとは最終的な成果発表に向けた調整をすることが主な仕事となる。
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Research Products
(8 results)