2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K02294
|
Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
松崎 毅 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (40190441)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 回覧 / 文学同人 / manuscript / Andrew Marvell / Katherine Philips |
Outline of Annual Research Achievements |
27年度に実施した研究は主に2つに分けられる。第一はAndrew Marvellの“An Horatian Ode upon Cromwell's Return from Ireland”を一つのモデル・ケースとして、17世紀における詩の回覧がどのような手段、どのような規模で行なわれたかを推測し、そこから出版文化に先立つ回覧文化のあり方を探るとともに、この政治詩を書くに当たってMarvellがどのような読者を想定していたかを明らかにすること、第二は、詩の回覧の伝統がイギリスでいつ頃どのように生じたか、回覧サークルはどのように形成され、そこにどのような慣習や約束事があったのかを主に歴史的な資料から探り、回覧文化というもののありかたを理論的に明らかにしていくことである。第一の研究においては、まずMarvellの伝記的事実関係を洗い出すため、Marvell関係の最新の研究書や同時代に関する歴史書を入手し、それらの資料を分析した。その結果、読者の想定についてはやはり王党派とともに共和制支持者をも念頭においていたであろうと推測できるものの、今年度は二次資料による考察が主となり一次資料の分析にまでは至らず、実際にそれを読んだ人物の推定については今後の課題として残った。第二の研究においては、16世紀から17世紀にかけての文化史、ならびに手稿(manuscript)の本文批評に関する研究書を収集・分析し、手稿文化一般についての知見を深めた。特に、Marvellと同時代のKatherine Philipsが行なった自作詩の回覧については、その読者と回覧の方法がかなり研究されており、その知見をMarvellの研究にもある程度類推的に応用できることが分かった。今後はMarvellの読者についての一次資料の読みと、Philips等を参考にした回覧文化の実体究明を平行して行なっていくつもりである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Andrew Marvellに関する批評、伝記研究、また内乱から共和制に至る時代の歴史研究は膨大な数の先行研究があり、これらを取捨選択しつつ読むだけでかなりの日数を費やしたため、具体的に"Horatian Ode"の回覧の範囲を推測するための一次資料の分析にまで手が回らなかったため。
|
Strategy for Future Research Activity |
"Horatian Ode"の回覧の実態究明ということをモデル・ケースとして研究を開始したが、Marvellの詩に関わった人脈については不明な点が非常に多く、これを改めて一次資料から掘り起こすには膨大な時間がかかることが分かった。それゆえ、この一次資料の分析は継続するものの、「回覧」の実態が比較的分かっているKatherine Philipsに関する研究、あるいはJohn Donneについての研究を同時に進め、これらが補い合うかたちで回覧文化の実態解明を進めることが今後の研究の効率性を高めると思われる。
|
Causes of Carryover |
Andrew Marvellに関する研究書、歴史書、出版文化等の文化史に関する図書に加え、Marvellと関係のあった人物の著作等、希少な一次資料の複写をBritish Liberary等からPDFで取り寄せるための費用を見込んでいたが、図書を読み込むのに予想以上の日数がかかり、一次資料の収集にまでは至らなかったため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
28年度は図書の購入と同時に一次資料の収集も進めるため、昨年度に見込んでいた文献複写費用を今年度に使用する予定。
|