2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K02294
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
松崎 毅 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (40190441)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | Katherine Philips / Andrew Marvell / manuscript circulation |
Outline of Annual Research Achievements |
28年度は、27年度の研究から生じた軌道修正に基づき、Marvellとほぼ同時期の詩人で、その作品回覧の実態が比較的明らかになっているKatherine Philipsをテスト・ケースとし、まず回覧文化の基本的要件を明確化することに注力した。Katherine Philipsは、その作品を回覧しただけでなく、彼女を中心とする一種の文学サークルを主催していた点で特異な存在であるが、その人脈を辿ると、主として二つの要素が見えてくる。すなわち、地縁・教育上の繋がりと政治信条上の繋がりである。彼女はロンドン近郊の寄宿学校Mrs. Salmon's Academyに学んだが、そこでウェールズ出身の王党派伝記作者John Aubreyの娘Maryと知り合い、のちに彼女自身が結婚によりウェールズに移り住むことで、Maryとの友情を深めるとともに、ウェールズの王党派人脈と深い結びつきを持つようになる。一方、同じ学院の同級生を介し、彼女は当時の宮廷文化の擁護者で自ら多くの王党派詩人・劇作家と交流を持っていた音楽家Henry Lawesのサークルに加わり、そこでロンドンの王党派のなかにも自身の人脈を作っていった。この人脈が王党派という政治信条上の同胞関係であったことは、当時の王党派の理念を体現したような文人・聖職者であり、夭折したWilliam Cartwrightの作品集の冒頭に彼女の推奨詩が掲載されたことからも明らかである。29年度は、この二つの要素を軸にMarvellの回覧時代の人脈を明らかにしたい。また、詩の回覧という慣行は、主として王党派の文学サークルに特徴的に見られたものであり、Marvellも含め、王党派から共和制支持へと政治的変節を遂げた詩人・文人たちが、それをどのように発展させて自分たちのネットワークを作り上げたかという問題にも取り組みたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
27年度の研究で、17世紀における詩の回覧の伝統やその出版文化への移行に関する著作、また、Andrew Marvellについての本文批評、伝記研究等の著作を収集し検討したが、資料の数が膨大で、これを取捨選択して読むだけでも1年の大半を費やし、当初目標としていた"Horatian Ode"の回覧に関する一次資料の分析には至らなかった。また、この一次資料も膨大な量となるため、28年度は、回覧の実態がある程度解明されているKatherine Philipsをテスト・ケースとし、どのような資料に当たれば効率的かをまず明らかにし、その方針に従ってMarvellに関する研究を再開することとした。Philipsに関する研究は順調に行なわれたが、全体としては1年目の遅れが尾を引いているため、やや遅れているという自己評価になった。
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Strategy for Future Research Activity |
Andrew Marvellの初期の詩の回覧において、Katherine Philipsに見たような地縁・教育上の繋がりと政治信条上の繋がりを検討する。Marvellも含め、なんらかの政治的変節を遂げたこの時代の詩人たちについては、かつての王党派が持っていたような結束の固い一枚板のネットワークというものは考えにくく、それは時勢とともに何らかの変質を余儀なくされたはずである。ただ、地縁・教育上の繋がりということに着目すると、Marvellがケンブリッジ大学在学中に築いた交友関係は、時勢の変化の影響をあまり受けることなく継続した可能性がある。このため、今年度は、彼のケンブリッジ時代の交友関係を中心に回覧人脈の有無を検討する。また、地縁・教育上の繋がりは無かったものの、Marvellの政治信条が変化していった時期の議会派の文人たちとの接点についても可能性を探りたい。
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Causes of Carryover |
研究資料は書籍(紙媒体)と、書籍ならびに手稿(主としてBritish LibraryのDocument Supply Serviceから取り寄せたPDF)を用いたが、年度途中に、他教員との共同出資(学内個人研究費)によりEarly English Books Online(EEBO)というデータベース利用権を購入し、これにより研究対象の時代の少なくとも出版された書籍については無料で読むことが出来るようになった。このため、資料購入代金に余剰が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
引き続き、書籍とBritish Libraryの資料とEEBOを使って研究を行なうが、必要が生じた場合は連合王国に渡航して資料収集を行なうことも考えられる。そのため、29年度の金額に余裕を持たせることとした。
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