2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K02294
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
松崎 毅 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (40190441)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | Andrew Marvell / Thomas Stanley / Richard lovelace / Earl of Northumberland / Marchamont Nedham / John Hall / manuscript circulation / print |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、詩人Andrew Marvellの属した回覧文化の位相に焦点を当て、特にケンブリッジ大学在籍時から続く交友関係を中心に調査を行なった。Marvellが当初は王党派の文学伝統を受け継ぎ、その延長上に詩人としての野心を抱いていたことはほぼ確実であり、これについては、ケンブリッジ大学在籍時から1649年までに書かれた諸作品を通じて確認を行なった。彼が王党派の文学サークルにどの程度コミットしていたか、また、具体的にどのような人物と交流を持っていたかに注目すると、同時期にケンブリッジ大学に在籍していたThomas Stanley、またRichard Lovelace等との接点が考えられ、彼らが“Horatian Ode”を手稿のかたちで読んでいた可能性について彼らの作品を含む様々な文献を渉猟したが、残念ながら先行研究が示す以上の新しい知見は得られなかった。一方で、大学以来のMarvellの交流関係を辿っていくと、彼が議会派ないし半議会派的な人物たちとも繋がっていた事実が分かってくる。例えば、George Villiersは、内乱時Marvellと同じく大陸に逃れており、彼がローマで主催していた“Poetical Academy”にMarvellも関わっていたとされる(Norbrook 167)。また、Villiersはこの時期、政治家Earl of Northumberlandの庇護下にあり、この人物は独立派の文人たちにも強い影響力を持っていた。このような独立派の文人とMarvellのあいだに思想上の共通点が多く見られることは興味深い。特にMarchamont NedhamやJohn Hallは、そのマキャヴェリ的な政治思想において“Horatian Ode”に極めて近い要素を持ち、Marvellのその後の出版文化との関わりを考えるうえでも重要であることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Andrew Marvellが関わったと思われる王党派詩人のサークルの成員や規模について明らかにしたかったが、回覧の事実を示すヒントとなる事象は予測されるその成員のあらゆる言説のなかに含まれており、膨大な量の作品や記録を読む必要があった。また、回覧の暗示と思われる言説があった場合でも、同時期に同様の政治状況でたまたま類似の言説や語句が使われた可能性も多々あり、回覧文化の実態の調査という点で進展が少なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
王党派の回覧文化についてこれまでの研究で分かってきたことは、それがあくまで一部の知的エリートたちのみを対象とする「内向き」のものであり、同時に内乱の敗北により失われた過去の宮廷文化を希求する「後向き」のベクトルを示していることである。一方、内乱期から急速に発達してきたジャーナリズムと出版文化は、王制主義との妥協点を探るという中道的なものも含め、少なくとも「新たな秩序」を模索しているという点で回覧文化とは異なるベクトルを持ち、同時に、その「新たな秩序」を実現するにはいかにして不特定多数の大衆の心をつかみ動かすかという観点に立つ「政治的」な文化だということである。この点に注目し、30年度はMarvellの“Horatian Ode”から“First Anniversary”にいたる時期をこの二つの文化の結節点と捉え、HallやNedham等のジャーナリスト達を含む当時の文献に当たることで二つの文化のあいだの推移のありさまを明確にしたい。
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Causes of Carryover |
Early English Books Online(EEBO、初期英語書籍集成データベース)の学内での利用が可能となり、British Libraryのオンラインサービス等と併せ、研究対象となる時期の一次資料が容易に入手可能となったことにより、少なくとも当該年度については、資料収集のための連合王国への渡航の必要がなくなったため。この分の予算は、今後マニュスクリプトの閲覧等、どうしても渡航が必要となったときのために次年度以降に繰り越すこととした。
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